梅沢由香里

1995年12月、囲碁のプロ棋士としてデビュー。
1996年入段、2002年五段。
第10期、第11期、第12期女流棋聖。

1999年 囲碁マンガ『ヒカルの碁』を監修
2005年5月 国際囲碁連盟理事に就任
2007年3月 女流棋聖就位
2007年4月 東邦大学理学部情報科学科客員教授に就任

囲碁普及プロジェクト「IGO AMIGO」の幹事を務め、日本全国で普及活動を行っている。
http://www.yukari.gr.jp/

考えている時間

(清水宣晶:) 由香里さん、
「どうして囲碁を始めたんですか?」
なんて話しは、もう聞かれ飽きたでしょう。

(梅沢由香里:) もう、たぶん、
550回ぐらい答えてるね。

碁のことと関係ないんですけど、
お賽銭て、いつも、
いくら入れます?

私、115円。

115円!?

昔、修学旅行に行った時に、バスガイドさんが、
「45円で、始終ご縁がありますように」って。
あれ・・?
なんで115円なんだったっけ・・。

(笑)ちょっと、話題を変えますね。
たとえば、銀座とかに、
自分のバーを開きたいなんて思ったことありますか?

一ミクロンもないです。

じゃあ、囲碁サロンだったらどうです?

たぶんね、結構、一人の時間が好きで。
だから、そういう開かれた空間にずっと長く居るっていうのは、
ちょっと苦痛かな。

一人でじっくり考えるって時間は好きですか?

うん、それは好きかも。
碁のこととかでも、考えることは結構好きですね。
なんか上手い手ないかなーとか。

囲碁の強さって何なんでしょうね。
ロジックを考える左脳的なものだけじゃなく、
図形を把握する、右脳的な面もあるんでしょうか。

私、碁をやってる時の自分の脳の状態を
MRIで測ってもらったことがあって。
そしたら、ほとんど動いてなくて、
結構、ショックだった。

脳が活性化されている部分に、
色が付いたりするやつですね。

そうそう。
血のめぐりが活性化してるところに色が付くみたいなんだけど、
ほとんど血流量に変化なし、みたいな。

それは、逆に、スゴいんじゃないですか?
瞑想状態みたいなモードになってるってことでしょう。

もうね、ピコッとも動かずに、
ゴマ粒みたいのが時々光るぐらいなの。
あれは笑いましたね。

(笑)こんなに静かなのか、と。
コンピューターが懸命に計算してるような、
頭がフル回転してる状態じゃなくて、
なんとなく、脳全体でぼやーっと考えてるんじゃないかな。

たぶん、そう。
コンピューター的な計算じゃないんでしょうね。

碁を打ってる時の頭の働きって、
自分で、そういう感覚はありますか?

すごく考えてる時もあるけど、
結構感情で打ってるかな。
こうなると、すごく気分が悪い、とか、
ここに打つと気持ちいい感じがする、みたいに。

ああ、やっぱり。
その感覚こそが、コンピューターじゃ無理で、
人間じゃなきゃ出来ない領域って気がするなあ。

活躍を見ることに夢中

由香里さんが囲碁を始めるきっかけになった、
お父さんって、かなりユニークな人だったんでしょうね。

夏休みって、
同じ日に開催されてる盆踊りがいくつかあったりするでしょう。
ウチの父は、それを全部まわろうとするんですよ。

ぶははははは!
なんでだろう!?
あちこちで踊りたかったのかな。

見たかったんでしょうね、全部。
それぞれの会場がどんなんなってるのか。
変わり者でしたよ。

お父さんは、囲碁強かったんですか?

全然出来なくて、私と一緒に始めて。
で、父は、囲碁に夢中になったんじゃなくて、
私が囲碁で活躍するのを見ることに夢中になったわけです。

由香里さんがどんどん上達するのが楽しかったんですね。
それは、なんかわかるなあ。
囲碁打ってる時には、
必ずお父さんがいましたか?

一緒に行くんでね。
もう、ずーっと見てて、
家に帰ると、反省会。

イチローパパとか、
横峯さくらパパみたいな。

ほんと、そんな感じ。

抵抗したこともあるんですか?

ヤダー!ってのたうち回ったこともあるけど。
「そんな子は、お寺に連れてくぞ」って言われて。

(笑)お寺!

今だったら、ちょっと楽しみだけど。
当時はすごいコワい場所だと思っていたから。

「勉強しなさい」って言われたことはなかった?

んー・・
算数が出来ないと怒られたかな。

算数?

算数は碁とつながってる、
って勝手に父が思い込んでたから。

それも結局、碁!
ほんと、碁が関わると容赦ない人ですね。

まあー、変わり者でしたよ。
私も、どっかで受け継いでるとは思うけれど。

でも、やっぱり、
お父さんがいなかったら、
ここまで囲碁を続けてはいなかっただろうし。

うん、私は性格的に、
基本は超怠け者なので、やめてただろうね。
普段は冗談ばかり言ってすごく面白い父だったし、
総合すれば、すごく感謝してますよ。

本屋のハシゴ

由香里さん、
今でもマンガは読みます?

マンガと本は大好きですね。
今日も、後で下の階の本屋に行こうと思って。
(※この日は、横浜LUMINEで話しをした)

あー、有隣堂。
ここの本屋は広くていいですよね。

私、趣味が「本屋」なので(笑)。
本屋のハシゴとか、よくする。

その趣味、僕と一緒だなあ!
本屋によってフィーチャーしてる本が違うから、
目につく本が全然違うでしょう。

そうそう、系統がね。
店員さんのキャラも違うし。
ここの本屋も楽しいし、
あと、銀座のコアビルにある本屋も結構楽しい。

銀座のブックファーストですね。

最近は結構、イッちゃってる本を読むのが好きで。
ホントかよ!?みたいな話し。

それ、ものすごい興味あるなあ。
ピラミッドとかミステリーサークルみたいなヤツですか?

そうそう!
読みながら、一割ぐらいしか信じてないんだけど、
そういうのが楽しいんですよ。
5次元文庫とか。

徳間書店の!
超意外で、最高です。

まあ、エンターテイメントですね、自分の中では。
自分たちのいる世界以外にも、見えてない世界が絶対あるはずだと思って。
好きでねえ、そういうの。
もう、すっごく疲れてて、何にもする気が起こらない日に、
本屋に行って、そういう本を目にしたりすると、
楽しくて元気になったりするんですよ。

本物の本屋好きですね。

本屋は楽しいですよね。
ホントに、想像力とか夢を膨らませてくれますね。

amazonではあんまり買わない?

時々買うんだけど、
書評をあてにするよりも、やっぱり、
自分で立ち読みして面白そうって思った本のほうが当たる。

じゃあ、本屋には
目的を決めて行くんじゃなくて、ぶらりと遊びに行く感じで?

そう。
もう、本屋に行くことそのものが趣味で、
その時の気分で小説コーナーに行ったり、料理本のコーナーに行ったり。
最近、ようやく、
東京駅とか品川駅とかにも、大きい本屋が出来て嬉しい。
私、出張が多いから、
なんで新幹線の駅に本屋が無いんだろうって思ってたの。

それ、すごいわかるなあ!
新幹線に乗る時って、何冊か持って行きたいのに、
駅の売店にある本ってショボいのしかないから、
なんか、いっつも不本意なセレクションになって。

なんか、ときめかないんだよね。
やっと、ここ5年ぐらいですね、
駅の中にも、いい本屋が出来たのは。

うん、品川駅に本屋が出来た時は、画期的だった。
駅の中に大きい本屋があるってのは嬉しいですよね。

帰り道の至福

マンガが立ち読み出来る
行きつけの本屋って、欲しくないですか?

欲しい!
対局で負けた後、本屋に寄って、
マンガを2冊ぐらい買って帰るのが、
私の至福の時間なんです。

ぶははははは!
負けた後に。

そう、気分を切り替えるために。

気分を切り替えるのに、マンガ以上の特効薬はないですね。
僕も、試験勉強とかしてた時は、
マンガを常に横に置いておいて、ここまでやったら1冊読んでいい、
っていうご褒美を用意しないと、やってられなかったです。

私も、それやってた!
大学4年生で、プロ試験を受けてた時、
碁の勉強をずーっとやってて、
「何時になったらマンガ買いに行っていい」っていうのを作って。
それだけを楽しみに勉強してました。

なんかね、そういう時に読むマンガが、またいいんですよ。
時間がたっぷりある時に読むよりも、多少の罪悪感を感じつつ、
むさぼるように読む、っていう感じが(笑)。

(※「あしたのジョー」「マスターキートン」「プライド」「サンクチュアリ」「BANANA FISH」などについての話しがひとしきり行われる)

いやー、なんか、いろいろ話してたら、
またマンガ熱がぶりかえしてきた。

そんなにマンガが好きだったら、
「ヒカルの碁」の監修をやったっていうのは、
かなり楽しい経験だったんじゃないですか?

それが不思議なもんで、
自分が中の人間になってしまうと、
客観的に読めなくなってしまうってことに気がついて。

純粋に一読者として楽しめない、と。

そうそう。
読者だと思ってると、これ面白いとかつまらないとか、
すごく客観的に判断出来るのに、
中の人間になった瞬間に、必ず面白くあってほしい、
みたいな前提になってしまうから。

マンガで「碁」をテーマにしたっていうのは、
やっぱり、子供たちが囲碁に興味を持つきっかけとして、
ものすごく大きかったでしょうね。

そう、あれがなかったら、
どうやって子供たちに普及させればいいかって、想像がつかない。
清水さんは、印象に残っているマンガのベスト3を挙げるとしたら何になる?

今のベスト3だと、
「マスターキートン」「ヘルタースケルター」「不思議な少年」かな。
「不思議な少年」は、間違いなく由香里さん気に入ると思うよ。

あー、それ、買わずに残しとこうかな!
負けた時のために。

(笑)買っておくわけではないんですか。

帰り道に買うっていうのが、至福なの。
そうすると、読んでるうちに一瞬で家に着いちゃう。
で、着く頃には負けたことは忘れてるっていう。

「あそこは、こう打つべきだったなー」っていう振り返りを
ひととおり考え終わった後に?

まあ、だいたい、
打ってる最中に、多少は考えてるんだけどね。
終わった後には、兄弟子に見てもらって、
客観的な意見を聞いて、自分の考えと照らし合わせて。
で、納得すれば、まあいいか、と。

そこまで済めば、
もう後は、一刻も早く、
気分を切り替えたほうがいいってことですね。

そうですね。うん。
マンガは大事なんですよ。

自分をマンガに描いてもらうとしたら、
誰に描いてもらいたいですか?

誰だろう・・
いっぺん描いてもらったことはあって、
それはそれですごく嬉しかったんだけど、
でも、もっと笑いに持ってってほしいんですよ。

笑いに持ってってほしい!?

私、はたから見るとマジメっぽく見えるらしいんだけど、
いつも頭の中で考えてることって
あんまりマジメなことは少なくて。
割りとアホなことをよく考えてるんですよ。

そこを、もっと表現してほしい、と(笑)。

そうそう。

NintendoDSでも、由香里さんの絵が入ってるゲームあるけれど、
あれも、なんかマジメっぽい感じだし。

たぶん、はたからのイメージだと、そうなんだろうね。
でも内心は、毎日自分とか周りの出来事をネタにして、
くだらないことばっかり考えてるんだけどね。
(2009年5月 横浜「ラ・メゾン アンソレイユターブル」にて)


清水宣晶からの紹介】
由香里さんには、彼女が幹事をつとめている「IGO AMIGO」で企画された、「ビジネスと囲碁の関係を考える」という対談に招かれた縁で、話しをさせてもらうようになった。
対局の時には真剣そのものだけれど、対局から離れた日常生活では、勝負の世界に身をおいている人とは思えないくらい、よく笑いよく話す、ものすごく楽しい人だ。

少し前までは古めかしいイメージがあった囲碁というものが、明るくオシャレなものになってきた背景に、由香里さんの存在はとても大きいと思う。
もともと高い年齢層に人気があった囲碁の魅力が、「ヒカルの碁」によって若い子供たちに伝わり、そして、その中間の世代の人たちには、ワークショップを通じて、みずからその面白さを伝えている。

由香里さんがその場にいることで、磁石のように多くの人たちを惹きつけるのは、本人が囲碁に対しての愛着が誰よりも強い人で、何よりも、囲碁を通して人生の様々な悲喜こもごもを味わってきた人だからなのだろう。
1対1の真剣勝負の場に臨む彼女に対して出来ることは何もないけれど、せめて、対局の気分転換になるような面白いマンガを探しながら、この先の、女流棋聖のタイトル防衛を見守りたいと思う。

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