小原響


大阪の、父親の創業した工務店で働いています。古民家再生をよく行なっています。

輝建設
http://www.terukensetsu.jp/

古民家の仕事場

(清水宣晶:) ここが石切駅か。


(小原響:) 遠いところ、よう来てくれはりました。


迎えに来てくれて、ありがとう。
事務所は、この近くにあるの?

すぐすぐ。
ほんま、すぐそこですわ。

この辺は高台だから、
すごく景色がいいね。

昔は、生駒石(いこまいし)っていうて、
この辺では有名な石の産地やったところなんです。
事務所のあるところは山を削って、
平らな場所を作ったらしいですわ。


おお!
こりゃあ、本格的な古民家だね。

昔は、庄屋さんの家やったみたいで。
小作人の人たちが集まって、
ここで脱穀とかの農作業をしてたって聞いてますわ。

この建物は、
どのぐらい昔のものなの?

だいたい築260年ぐらい。

260年!?
てことは、、1750年頃に建てた家?

元禄とかよりちょっと後やったかな、
そんな頃ですわ。

この柱が、伝わっている話によると、
大阪夏の陣で戦火にあった家の柱を、
もろうてきたものらしいです。

じゃあ、この古民家自体が、
当時の古民家の部材を再利用して建てられたものなの?

そう。
昔は電動工具ないから、
手鉋(テガンナ)で四角く製材するっていうのは、
結構、手間やったんです。
だから、「家壊すの?じゃ柱、もろてくわ」ってな感じで、
再利用する、っていうのがようあったらしいよ。

この、土間を境にして、
空間が2つに分かれてるっていうのは、
面白い構造だね。

こっちは、もともと台所だった部分で、
竈(カマド)なんかが置いてあって、
だから天井やら梁やらが全部、燻されてる。


それで煤がついてるのか。
居住スペースと台所が、
土間を挟んで独立してたんだね。


こっちの離れの家は大正末なんで、築90年ぐらい。
こんな感じの、お客さん招くためだけの離れって、
明治以降の鹿鳴館みたいな西洋の接待のスタイルの影響やと、
ここの見学に来はった大学の先生が言うてはりましたよ。

本当に昔のまんま、
手を付けてない感じだ。


なんか暗いんよね、今の人の感覚やと。
だから「なんかコワい」っていう感じになんやろうけど、
この暗い感じの壁を、白い漆喰で塗ると、パッと明るくなる。

昔の日本家屋の生活って、こんなだったんだな。
日本の器っていうのは、こういう薄暗い中のほうが、
見栄えがするようになってるんだろうね。


ここは、米蔵やったんやけど、
工事中に荷物の整理をした時、
陸軍の機密書類がたくさん入った、
ごっついトランクが出てきたことがあって。

こんな、蔵の中に(笑)。

全然機密になってないやん、ていう。

庭もまた、渋いなあ。
ハランがたくさん植わってる。

お寿司の下に敷いている葉っぱみたいなんがこれ。
ここのはなんぞエエいうて、
たまに大阪市内のお寿司屋さんが、
買いに来てはります。

石切という地名だからか、
庭にも石が多いね。


このへんの土地を平たくする時に出た石を組んで、
石垣を作ったんちゃうかな。
家の床組みも束石だけでなくて、束まで石でできてたし。
こんなんはちょっと珍しいんちゃうかな。

こんな古い建物が、
こういう、使える状態のまま残ってるなんて、
相当貴重なものでしょう?

それが意外とあるところにはまだまだある。
でも、こういう古民家は古過ぎて、
住んでいる人にとっては手間のかかるもの、
処分しにくいものいうのが
社会のなんとなく共通認識やったと思う。

維持するだけでも、手間かかっちゃうのかな。

基本的に、建物の資産価値ないです、
ほな壊して、平地にして売りやすくしますわ、
買いやすくしますわ、というのが、
ほんのちょっと前までの、
よくある古民家の扱い方やったんやないかな。
おおかた、土地も広すぎるから、
相続税を払ったりするために分筆して売却しようって考えると、
建物を解体せざるを得なかったするやろうしねえ。

一度壊しちゃったものは、
もう、元に戻せないからね。
この家は、壊されずに残ってよかったよ。

ほんと、そう。
でも、古民家を取り巻く状況というか、
みんなの意識が変わってきてるのを感じますわ。
今は、京都や大阪市内でも町中に残ってる古い町屋は人気やし。
不動産屋さんも、普通の家より、町家のほうがええ値段で商いが出来るらしい。
うちも、若い人からの問い合わせ増えてますしね。

薪ストーブの魅力


これがウワサに聞いてた、ピザが焼けるストーブだね。
普通のストーブとは、作りが違うの?

これは、クッキングストーブっていうやつで、
このレバーを引っ張ると、煙が煙突に行く前に、
オーブンスペースの周りをまわって、
暖かくなって焼けるようになってますねん。

直火じゃなくて、
窯全体からの熱で焼くのか。

普段は、工事現場で出た木っ端や、
建築資材の残りを燃やしてるんだけど、
お客さんが来はったときなんかは、
桜やら、香りが立つような薪を燃やしたりしてます。


薪ストーブは、お客さんには、
結構オススメしてるの?

うん、そうやね。
最近、佐藤くん(佐藤孝治)と会ったときによく聞いた、
「USP」だっけ?
自社にしかないセールスポイントっていうことを考えた時、
古民家と薪ストーブっていう組み合わせの工務店は、
大阪では他にないやろうから、面白いちゃうんかなあ、と。

なるほど。
古民家と薪ストーブってのは、
相性がいい組み合わせだよね。

男の夢、的な組み合わせという感じがあって、
話しをすると、
お父さんたちの食いつき具合はなかなかいいです(笑)。

そういうイメージ、あるよね。
山小屋に暖炉置いて、
ロッキングチェアでパイプふかす、みたいな。


そうそう、まさにそんな感じ。
自分が一人で住んでた時も、
薪ストーブ入れて生活してて。
なんかわかんないけど、
火遊びしてる感じが妙に楽しい。

一人暮らしの家で、
薪ストーブなんか入れられたの?

大家さんに聞いたら、
改造していいって言ってくれて。
工務店やから、小さな一軒屋を、
ここみたいな感じにリフォームして。

賃貸で、リフォームして
薪ストーブ入れちゃうって豪快だね(笑)。

その前から、お客さんの家に
薪ストーブを入れてたんやけど、
実際に自分が住みながら使ったことはなくて。
住んでみると、やっぱり、大変なこともわかるし。
住んだからこそ、いろいろ言えることもあって。

こういうストーブって、なんか、
特別な手入れとかの必要あるの?

年に1回は、煙突の煤落としせんとあきませんね。
まあ、それぐらいで。
特に毎回しなければいけないような
特別な手入れはないんやけど、
住んでてわかった困ったことはある。

どんなこと?

当時の家が仕事場まで遠かったから、
朝は6時に家を出て、
帰宅は早くても夜の9時か10時くらいやったんですよ。
そうすると、薪ストーブに火入れて十分暖まるまでには
2時間くらいかかるから、お部屋が快適という頃にはもう寝なアカン。

ぶははははは!

だから、毎晩、火をちょっと見て楽しむぐらいで。
これは、一人暮らしとか共働きの人にはなかなかお勧めできんなあと。
でも、誰かが毎日長時間、家にいるようなウチやったら、
ほんまにオススメです。
火を燃やして、その火の熱で直接暖かくなるというよりも、
この、ストーブの鋳物からの輻射熱で暖まってるっていう感じだから。
暖まって、かつ楽しいっていうのも、他には無いしね。

鋳物だから、熱しにくく冷めにくい。

そうそう。
だから、ある程度暖まってしまえば、
放っておいて火が消えても、朝までじんわりと暖かいまま残ってくれる。
この前の、東日本の地震の後に考えたことがあって、
感覚的なことかもしれないけど、
熱源だとか水だとかは、
ある程度は自分でハンドル出来るように
しておいたほうがいいんじゃないかと思ったんだよね。

ほうほう!

ストーブだと、燃やすものさえあれば、
暖まれるし、料理も出来るし、お湯も作れるし。
実際、薪ストーブは今回、だいぶ東北で活躍したらしいよ。
この事務所にも、薪ストーブ2台使っているし、
その他にも展示品が常時2台ある。
燃やせる薪はたくさんあるし、井戸もあるしで、
何かあった時には、近所の人たちに、
この場所を使ってもらえると思ってます。

完全にガスや水道が止まっても、
しばらくの間は、なんとかなるんだね。


で、こういうものって、
説明書がなくても、直感的に動かせるでしょ?

それはあるなあ。
使ったことがなくても、
なんとなくはストーブとして動かせる気がする。

中学生の時に、
脱サラして東京から長野に移り住んだ人の本を読んだ時、
そこにクッキングストーブがある暮らしのことが書いてあって。
木を燃やすと料理もできて暖まりますよって。
ずーっと、いいなあと心の片隅に忘れずにいたから、
事務所に薪ストーブ置こか、って話しになった時は、
クッキングストーブしかないって感じだった。

ただの薪ストーブじゃダメなんだと。

結構値段もするものなんやけど、
でもこの場所には、お客さんも見に来はるから、
見た時、「おおっ!」となる、大きいものほうがおもてなしやろし。

これ、重さってどのぐらいあるの?

このクッキングストーブは、280kg。

そんな重いんだ!?
まあ、鉄の塊だからなあ。

お買い得な薪ストーブだと、
鉄板を折り曲げて作るんだけど、
これは、鋳物だから相当重たい。

こういう薪ストーブは、やっぱり、
古民家の中に置かれてると、しっくりくるね。

木やら石の家じゃないと合わないと思う。。
なんか、毛深いでしょ?存在が。

(笑)存在が毛深い!

ヒゲもじゃの男の人みたいでしょ。
ツルッとしたビニールクロスとかやと合わないでしょう。
家をこんな感じで木なら木、土なら土みたいなリフォームしたお客さんって、
だいたい、それにあわせて、皆さん家具も変えてはりますよ。
プリント合板の家具とか、置いとかれんようになったって。

そうか。
そりゃあ、そうかもね。

直して使い続ける

こういう、
古民家の中で仕事をするっていうのは、
普通のオフィスの中と全然、雰囲気違うでしょう?

ちゃいますね。
古い物が好きなんでしょうね、ウチの家族全員。
父、母もここで働いてますしね。

そうなんだろうね。
そうじゃないと、古民家を
事務所にしようと思わないよね。

そんな家族のなかで育ったせいか、
こんな仕事しているせいか、
僕自身、なにかを直しながら使うというのが好きなんかもね。
たとえば、靴買う時に考えることって、
直せる靴かどうかっていうのが一番大きな基準やから。

あ、そう!


一番古いものは、もう20年ぐらい
ずっと直しながら履き続けてる。

そうか。
最初から、長いこと使い続けるつもりで買うんだね。

服も、穴あいたら、お直し出して着てるし。
今の時代、服や靴だけに限らず、
直して使う経験ができる機会が少ないんじゃないかと思う。

作る側も、直して使うっていう前提で作ってないよね。
電化製品でも、壊れた時にはもっと新しくて安いものが出てるし。

電化製品もそうだけど、
車も新しければいいというのがなんか納得できない。
今の新車、見た目や質感が好きになれなくて、
めっちゃ欲しいと思う車ないなあ。
昔のミニだとかアルファとか、
ああいうのを今でこそ乗りたいけど、
今の車の便利なところとか、安全性能とかは欲しい。
だから、欲しい車は、ああいう見た目で、
中身だけ新しいものなんだけど。

なるほど。

自分が家を直す時に提案するのも、
見た目は昔のままなんやけど、
内側の見えない部分で断熱材を入れたり、
きちんとインターネットを使える環境にしたりとか。

いいねえ!
古民家だけど機能性があったり、
水まわりが使いやすかったりすると、最高だよ。

改装した後、親戚の人なんかが見に来た時に、
「どこ変わったん?ちょっとキレイになっただけやん」
って言われるのが、理想。

(笑)どこが変わったかわからない、
っていうのが最高の褒め言葉なんだね。


だから、今井さん(今井健太郎)が改築した銭湯を見た時なんかは、
「なるほど!スーパー銭湯やない、新しい銭湯はこういうことか!」と。
あれは、素晴らしいと思った。

そうか!
まさに、昔の形を残しながら、
機能面のリフォームをしてる見本だよね。

あと、直す時に僕が気をつけてるのは、
次の人が直しやすいようにはしておこうと思ってる。
何十年か経って、僕が死んで、発注してくれはったお客さんも亡くなって、
二世代ぐらい後で、なんぞ工事する時に、
これどないなってんねん、みたいな家じゃなくて、
ちゃんと直しやすいようにしとかなあかんな、と。

それは本当にスゴい。
そういう、ずっと使い続ける前提で
作られてるものってのは、
やっぱり、使う人も愛着が湧くと思うよ。

建築の意図

ちょっと、この後、
ミナミで最近一番人気の立ち飲み屋に行きましょか。

お!?
よし、行こう。

この店、雰囲気いいねえ。
どれ頼んでも、安くて美味いのがスゴい。

そうでしょ、おいしいでしょ。
ここのお店好きなんは、おいしいだけやなくて、
まあ内装も好きなんですわ。
建築を勉強してて面白いんは、
店入った時や、町歩いている時に、
デザインした人の意図がハッとわかる時ありますねん。

プログラムでも、システムのソースを見て、
その作った人の意図とかがわかる時あるんでしょ?

うん、ソースコードから、作った人が
どういう思考で書いてるかわかることはあるね。

ここの店は、料理もこだわりやろけど、
内装見てると、結構こだわりあるんやろなという気がする。

あ、そう!
どういうところを見て、それを感じるの?

この壁ね、一枚板に見えるでしょう。

でも、これは元はたぶん、大きな幅のベニヤ板で。
それを、これぐらい短い幅に一回落として
こういう風に張ることで、一枚板の木に見えるようにしてる。

ああ、なるほど。
ベニヤをそのまま使うんじゃなくて、
ひと手間かけて、見映えを良くしてるんだね。

なんでもかんでも本物志向の建物道楽の人からすると、
邪道なやり方かもしれないけど、
僕は、これを考えた人、提案を受けて採用した人は
いいセンスやな、と思う。
安かったらなんでもええねん、というのなら、
わざわざ幅狭くして張らんでもいい。
安いけど、安いだけじゃないねん、頭使ってんますねんというのがいい。
料理と同じで、普通の材料を使いながらも
一手間入れて、確実にランクアップしているのがいいなあ、と。

なるほどなあ。
そういうの、まったく考えたこともなかったよ。

この天井も、よく見ると、市松模様みたいに、
縦と横の向きを交互に入れてるでしょう。


うん。

これは、格天井(格子状に組んだ天井)を見立てて、
桟を使わずに模様だけで表現してますわ。

ほんとだ。
これも、ベニヤ板を使ってコストを抑えながら、
格天井と同じ雰囲気を作り出してるんだね。


こういうやり方は、あくまでもフェイクであって、
決してキングスロードではないけれども、
限られた予算の中で、
少しでも理想に近づけようとする意志を感じるから、
スゴいなあ、好きやなあと。

そうだね。
やり方次第で、いろいろと工夫が出来るってのは面白い。

そうそう。
この仕事をしていて面白いのは、
家を作る時やら、直す時すべてにおいて、
お客さんの求めるものに対して、
今までの仕事や、仕事以外の経験や知識も総動員して、
いい工夫することができることですわ。
(2012年4月 大阪石切「輝建設」、難波「丑寅」にて)


【ヒトゴトへの一言(小原響)】
ヒトゴトの一読者だった私が出てしまっていいの?と思う反面、清水くんにどのようなことを語って、それをまとめていただいて、それをまた一読者として読めるというのが、ものすごく楽しみでした。
貴重な機会をありがとうございました。
事後、人様になんぞ語ったことよりも、語っている己の顔写真に妙な恥ずかしさを覚えます。

清水宣晶からの紹介】
小原くんは、もともと建築を専門に勉強していたわけではない。出版社と広告代理店という、まったく畑違いの分野から、家業を継ぐために、途中から建築を勉強し始めた人だ。
しかし、彼には、それまでの間に、多方面にわたる知識の蓄積や、古い物についての造詣の深さがあり、それらが結果として良い形で融合し、熟成されて、彼にしか提案出来ない建築分野を確立している。

大阪の自宅に泊まらせていただいた時、そこにストックされていた、過去に描いたイラストレーションの作品を見せてもらい、その膨大な量の蓄積に驚いた。そこには、大量のCDや本があり、そこからも、あらゆる分野の事柄についての飽くなき興味がうかがえた。
彼の中には、雑多なジャンルを逍遥してきたからこそ生まれる、豊かな世界がある。

小原くんが好む、時間をかけて本当に自分の好きなものを選んで使う、というライフスタイルは、合理的思考だけでは測れない、いわば余剰の遊びの部分だ。
だから、ミニマイズに規格化された生活を良しとする風潮には合わないものかもしれないけれど、ムダがまったくない生活を、みんながみんな選ぶようになっては、寂しい。
そこに彩りを与えることが出来るのは、彼のような、風流を解する趣味人なのだと思う。

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