佐藤明日香


1987年 北海道生まれ
2009年 法政大学文学部日本文学科卒業
大学の授業中に独学でボールペンで絵を描き始める。
現在は展示を中心に活動中。
http://satowasuka.com/

たびねこ」(飛鳥新社)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4864102988/

<常設展示>
(株)パイロットコーポレーション Pen Station Museum&Cafe 1F カフェ店内
http://www.pilot.co.jp/service/museum/

自分の中のブーム

(清水宣晶:) 佐藤さんの、絵を描くときの集中力って、
ものすごいだろうと思うんですけど、
絵にかぎらず、いったん何かに熱中すると、
それに没頭しちゃいますか?


(佐藤明日香:) 私、熱しやすく冷めやすいんですよ。
ハマると、もうそれしか見えなくなるんですけど、
それが冷めると、まったくやらない、っていう。

熱くなってる期間っていうのは、
そんなに長くは続かないですか。

同じ季節が再び巡ってくる頃には、
だいたい自分の中でブームが終わってます。

(笑)そういう法則があるんですね。
今まで、どういうものにハマりました?


3年ぐらい前ですけど、
献血にハマってました。

・・献血!?

「全血献血」と「成分献血」があって、
全血をした後は、4週間空けないと
次の献血が出来ないんですけど、
私がやっていたのは成分献血のほうで、
それだと2週間ごとに出来るんです。

ほうほうほう。
成分献血のほうが、回数を増やせるんですね。

当時は、一年で20回ぐらい行ってて。
2週間が過ぎると、
「あ、もうそろそろ行かなきゃ」って。

その・・
献血の魅力ってのは何なんでしょう?

渋谷にあった「SHIBU2(シブツー)」
っていう献血ルームに通ってたんですけど、
そこは係の人が優しくて、
ミスドやハーゲンダッツももらえて、
マンガも読めたんです。
だから、ヒマな時間が出来ると献血しに行って。

その空間が快適なんですね。

そうですそうです。
渋谷のオアシス、みたいな。
たとえば、午後3時に渋谷にいて、
5時に待ち合わせがあったら、
その前に一本、血を抜いていくか、って。

ぶはははは!
注射って、イヤじゃないですか?

注射は好きじゃないです。
でも、「血が不足しています」っていう
プラカードを持ってる人を見ると、
私が行かなきゃ、って思っちゃうんです。

使命感ですね。

シブツーがなくなってからは、
あまり行かなくなっちゃったんですけど。

佐藤さんて、世の中のブームとか関係なく、
自分のブームを持ってそうですよね。


そうなんです。
テレビもネットもない生活をしてて、
世の中のことを全然存じ上げないものですから。

え!?
ネットもないんですか?

ずっとないんですよ。
iPhoneで、twitterは出来るんですけど、
ホームページの更新は出来ないので、
週に1回、「マンボー(ネットカフェ)」に行って、
30分だけパソコン使うんです。

そんな人、初めて聞きましたよ・・。
マンボーは、家の近くにあるんですか?

最寄りの駅にはネットカフェがないんで、
隣りの隣りの隣りの駅まで自転車で行って。

ものすごい手間かかってますね。
じゃ、ホームページを更新するときは、
あらかじめパソコンで変更しておいて、
マンボーに行って、
まとめてアップロードするってことですか?

そうです。
行く前に、パソコンで変更をしておいて、
マンボーからFTPでアップロードします。

それはすごい。
電話回線でネットに繋いでた時代を
思い出しますよ。

テレホーダイですか?

それです!
夜11時以降になると使い放題になるので、
その前に用意をしておいて、
ネットにつないだ時にまとめて更新してました。

私がやってるのが、そんな感じです。

今は、スマホがあれば、
たいがいのことは済んじゃうから、
わざわざネット回線を引く必要ないかもしれないですね。

そう、twitterとかはiPhoneで出来るので、
ホームページを更新するだけなら、
月に30分×4回ぐらいネットが使えれば十分なんですよ。

外出したついでに、
ネットカフェに行けばいいわけだし。

もう、新宿に来たらマンボーです。
さっきも行ってきました。

あ、そうですか!
それは、ホームページの更新のために?

そうです、ページの更新と、
アクセスログを確認して。

ログを確認するだけなら、
iPhoneで見れたりしないんですか。

見れるはずなんですけど、
私のiPhone壊れてて、
ホームボタンと電源ボタンが、
しょっちゅう動かなくなるんですよ。

そんな重要なボタン使えない状態で、
どうやって操作するんですか?

これなんですけど。


おお・・
ひさしぶりにiPhone3を見ました。

銀座で個展をやってた会期中はほんとに大変で、
このiPhoneからはtwitterに写真をアップ出来ないので、
毎日、在廊した後の帰り道に、
三鷹の「ゲラゲラ(ネットカフェ)」に行ってたんです。

そんな、ただでさえ忙しい時に。

会期中は、いただくメッセージも多かったんですけど、
そういう時に限って、ホームボタンも動かなかったりして、
10回に1回ぐらいしか反応してくれないんです。

うわあ、、ツラい。

調子悪い時は、まったく反応してくれなくなって。
そうなったら、もう画面を表示させることが出来ないので、
公衆電話から自分のiPhoneに電話をかけて、
画面を表示させるんです。

なるほど。
ホームボタンは死んでても、
タッチパネルの部分は生きてるから、
そうすると一応、画面を表示させられるんですね。
佐藤さん以外には役に立たない裏ワザですけども。

だから今日も、来る前に、
清水さんの連絡先を手帳に書き写しておいて、
iPhoneが使えなくなっても連絡がつくように、
対策をしてるんです。

意味不明な労力を、
あちこちでかけてますよね(笑)。

なんか、わたし、
努力の方向を間違えてるでしょうか?

うーん、まあ・・・
とりあえず、携帯は、
そろそろ機種変更してもいいと思います。

人生を変えた出会い

佐藤さんは、
絵を描くということを仕事にしようと、
学生の頃から思ってましたか?


いや、全然思ってなかったんです。
美大に行っていたわけでもないですし、
大学を卒業した時は、予備校に就職して、
事務の仕事をやってたんですよ。

そうだったんですか。

就職をして、最初の夏休みに、
スイスに一人旅に行ってたんですけど、
その帰りの飛行機の中で、旅ノートに、
旅行の日記とイラストを描いてたんです。

はい。

通路側の席だったので、それを見た、
タイさんっていうスチュワーデスさんが、
大きい紙を持ってきて、
「私にも描いて」って言ってきたんです。

そんなこと言うスチュワーデスさん、
聞いたことないですよ(笑)。

ないですよね。
「飛行機が着陸するまで、
まだ6時間あるわね」って。

着陸までの時間、全部!

その後すぐ消灯の時間になったんですけど、
「寝ないで描いて」って言われたので、
天井の小さいライトをつけて、黙々と描いてたんです。


ぶはははは!
いろいろと指示されたんですね。

私が寝ないで絵を描いてることが、
いつの間にか他のCAさんにも伝わってて、
チョコレートとかを差し入れに来てくれるんですよ。
機内食も、途中で片付けられたり。

絵を描く邪魔になるから、と。
CAみんなで協力体制が組まれてたんですね。

で、絵が出来上がって、
タイさんに渡した時、ものすごく喜んでくれて。
他のCAさん達にも見せてまわって、
全員が一人ずつ感想を言いに来てくれたんです。

それは、スゴい。

私の隣の席に座ってたシンガポールの人も、
それまでずっと無言だったんですけど、
私の肩をポンポンって叩いて、
「I like your drawing」って言ってくれて。

おおお・・。
なんか、感動しますね。

すごい、通じた!って思って。
絵で人の心って通じるんだっていう、
そのことがすごく嬉しかったんです。

うんうん。

その後、タイさんが
通路にしゃがんで、私のほうを見て、
「仕事は何をしているの?」って聞いたので、
予備校の事務をしています、って言ったら、
「今すぐ仕事を辞めて、絵を描きなさい」
って言ってくれたんです。


それは、なんか、
啓示に近いですよね。
もはや、逆らえないものを感じるし。
いろんな偶然が重ならなかったら、
今の佐藤さんはなかったわけですね。


ほんとにそうです。
もし、窓際の席に座ってたとしたら、
タイさんにも気づかれなかったわけで。
人生を変えた、幸運な出会いでした。

紙とペンとラジオ

佐藤さんの絵を見てると思うんですけど、
これを描いてる時の気持ちって、
写経に似てるんじゃないでしょうか。

近いものがあると思います。
無になれますね。
動物の、黒い部分を塗ってると、
何時間でもやっていたい気持ちになって。

塗りつぶすのって、いいですよね。
僕も、単純作業に没頭するのって好きで、
癒やしの効果があると思います。

私、それを「黒塗り」って呼んでるんですけど、
黒塗りしてると、平気で1~2時間ぐらい経って、
ランナーズハイみたいな状態になってるんです。

(笑)スゴい。

塗ると、一気に絵が引き締まるんですよ。
「あ、今、完成に近づいてる!」って気がして、
幸せな気持ちになるんです。

ずっと描き続けてると、さすがに、
そのうち集中力が切れてきますよね?

そういう時は、寝ます。
中途半端な状態で描いた作品を発表すると、
それがずっと残っちゃうので。

描き間違えた時に、
修正って出来るんですか?

出来ないです。


そうですか!
修正液を使ったりはしないわけですね。

そこは、こだわっているところで。
失敗したら、破棄です。

失敗っていうのは、
どうなったら失敗なんでしょう。

わかりやすいのは、
描いてる時に、ペンが滑って、
線がピーッて入っちゃったり。

うわあ・・
それは、完成間近だったらショックですよね。

そうなんです。
だから、最後のほうは、ほんと慎重になります。

今は、生活の時間の大半、
絵を描いているわけですか?

そうですね。
毎日、ほとんどの時間、描いてます。
朝6時に起きて、夜10時くらいに寝て。

ちゃんとした生活をしてますねえ。

朝が一番集中出来るので、
起きて2時間くらいは、何も食べずに描くんです。
で、朝ごはんを食べて描いて、
昼ごはんを食べて描いて、
ちょっと近所の川に散歩をして、
晩ごはんは、夕方の5時くらいに食べちゃいます。

いいなあ。
それだけ、思う存分、
創作の時間にあてられるっていうのは、
素晴らしいですよ。

一週間ぐらいは、
まったく人と会わずに過ぎちゃうことも、
普通にありますね。


佐藤さんは、
余計な物は持たないタイプですか?

物、全然ないです。
ほんとにアナログな生活なんです。
友達が遊びに来ても、本も何もないから、
「やることがない」って言われて。

娯楽が何もないじゃないか、と。

近所の駅前に行っても、娯楽がないんですよ。
駅前で盛り上がってるのが「ジョナサン」ぐらいで。

(笑)「ジョナサン」が一番の盛り上がり。
余計な誘惑がなくていいかもしれないですね。
仕事するには、紙とペンさえあれば
いいわけですから。

あと、ラジオを置いてます。

紙と、ペンと、ラジオ。

ネットもテレビもないから、
私の唯一の情報源です。

ラジオは、ずっと同じ局を
つけっぱなしですか?


J-WAVEをいつも聴いてます。
夕方にやってる「GROOVE LINE Z」が面白すぎて、
絵を描いてると、笑って線がズレちゃうので、
「GROOVE LINE Z」が始まると、夕飯の支度を始めて、
食べながら、「うふふ」って聴いてるんです。

あ、そういうこともあって、
夕方の5時からご飯食べてるわけでしたか。

ラジオって、番組に投稿すると、
結構それが読まれることがあって、楽しいんです。
自分が参加してる気持ちになって。

ラジオ、面白そうだなあ。
単純作業をやってるような時は、
特に相性良さそうですね。

ラジオはいいですよ。
J-WAVEを聴くなら、土曜の朝8時からやってる
「ラジオドーナツ」っていう番組が、間違いないです。

愛用のボールペン

佐藤さんが、絵のモチーフを考えるときの、
イメージのもとになっているような
体験とか風景はあるんですか?

私、大学生の時に、
バックパックの旅行をしたことがあって。
最初に行ったのがフィンランドだったんですけど、
そこから、船でタリンに行ったんです。

エストニアですか!
珍しいところに行きましたね。


その街並みがキレイで感動したのが、
自分の絵にすごく影響していると思います。
あと、ウィーンとかチェコとかもすごく好きで、
景色を覚えておいて、後で旅ノートに描くんです。

そうか、そのストックが絵に活かされてるんですね。
そう言われてみると、東欧風の建物っぽい感じします。

ヨーロッパ色は強いと思います。

ずっと描き続けていて、
手は、腱鞘炎になったりしないですか?

腱鞘炎はないんですけど、
ペンダコが出来ますね。


うわあ・・
これはすごい。

もう消えないでしょうね。

武士の刀傷みたいな、勲章ですよ。
ボールペンは、必ずこれを使う、
っていうペンは決まっているんですか?

決まってます。
私が愛用しているのは、PILOTの、
HI-TEC-C(0.25mm)っていうやつで。


やっぱり、
これじゃなきゃダメですか?

0.4mmのペンとか、
他社製では0.18mmのボールペンもあって、
いろいろ試してみたんですけど、
今はこのペンしか使ってないです。


このペンって、黒色が、
ものすごくはっきりと出るんですね。

そう、きれいなんですよ。
にじまないから均一に描けますし。
ほんとに、いいボールペンです。

このペンが生産中止になっちゃたりしたら、
かなり困ったことになりますね。

困るので、PILOTの方とお話しした時、
「絶対、生産中止にしないでください」ってお願いしたんです。
「佐藤さんが生きているうちぐらいは大丈夫です」
って言ってくださいました。


これだけ細かい絵を描いて、
インクがまったくにじまないっていうのは、
スゴいことですよね。

本当にスゴいです。
技術的な説明も聞いたんですけど、よくわからなくて。
とりあえず、こんなにいいペンを開発していただいて
ありがとうございます、って思ってます。
(※その後、PILOT社との夢のコラボが実現し、
佐藤さんはノベルティーのペンポーチをデザインした↓)



(2013年9月 新宿三丁目「ドトールコーヒー」にて)


清水宣晶からの紹介】
佐藤さんの作品を初めて見たのは、銀座三越で開催されていた個展に立ち寄った時だった。
そこに飾られていた、今までに見たことのないような緻密な絵の数々は、いくら眺めていても見飽きるということがなく、「これは、とにかく、なにかスゴいものだ」ということだけは、すぐにわかった。

その時、在廊していた佐藤さんは、興味をもって話しかけてきた来場者一人ひとりに、長い時間をかけて丁寧に作品の説明をしていた。
僕も一緒に佐藤さんの説明を聞くうちに、作品に込められた思い入れが伝わってきて、その熱量の大きさに感動したのだった。

佐藤さんは、美大を出ているわけではなく、絵の描き方を専門的に勉強してきたというわけでもない。
それでも、人の心に響く作品を作れるというのは、学校で習う技術や知識とは次元の異なる資質を持っている、ということだ。

子供の頃に、小さなキャラクターの落書きをノートの端に描いた記憶は、多くの人が持っているのではないかと思う。佐藤さんが他の人と違ったのは、その後、描き続けている量がハンパなものではなかったことだろう。

ボールペンと紙とラジオだけを机に置いて、無心に描き続けることが出来る。
それを、起きてから寝るまでの間、毎日毎夜繰り返すことが出来る。
そのことこそが、佐藤さんが持つ大きな才能なのだと思う。

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