麻生沙織


家族4人+犬1匹(高3娘・中2娘・ヨークシャーテリア8歳)
趣味:生音楽・ミュージカルなどの生のステージ鑑賞、ジグソーパズル、ボードゲームなど
(2023年11月 荻窪「麻生邸」にて)

犬はかすがい

(清水宣晶:) この家、
めちゃくちゃいい場所だね。


(麻生沙織:) 便利でしょ?
ここの環境が気に入ってさ。
あと、2階が4部屋あるのね。
4LDK以上で探してたから、それもよかった。

そうか、子どもたちが大きくなると、
それぞれに部屋が必要になってくるのか。

そう思ってたんだけど、
長女Mはだいたい、このリビングで勉強してる。

Mちゃんは、自分の部屋で勉強するよりも、
リビングでやったほうがはかどる?

(M)本当に集中したいときは上の部屋でやるんだけど、
そんなに勉強一本だけにすることができなくて。
何かを見ながらとか、聴きながらがちょうどいい。


それはわかるな。
適度にノイズがあったほうが能率があがるんだね。

そうだね、
だいたい「ながら勉強」だもんね。

文章をしっかり読む時とかだけは、
静かにするけど。


その時のモードによって、
家の中で場所を選べるのはいいな。

それぞれ部屋を持つことで、部屋に籠もって、
家族バラバラになることを心配してたんだけど。
スポーツ観戦とかで、なんだかんだここに集まったり、
思ってたよりは、みんなここにいる。


そうか、スポーツ観戦はやっぱり、
みんなで大きいテレビで見たいよな。

あと、犬を飼いはじめたのが大きかった。

おお、どうして?

オレオがいると、みんなそこに集まるんだよね。
かわいいし、話のネタになるから。


たしかになあ。
赤ちゃんがいる感じと似てるな。
みんなの注目が一つに集まることで、
その場がまとまる感じがある。

そうそう。
自分たちのこと話さなくても、
ワンちゃんの話で会話がつながるから。
それで家族が繋がれる感じがあって。

「子はかすがい」みたいなことだな。

とくに思春期の時期に飼ったのはよかった。
みんな、イライラしてる時でも、
この子には優しいじゃん。

そうだよね。
犬って、家族が大変な時でも、どんな時でも、
いつも変わらない態度でいてくれるのがいい。


ほんと、ペットってそういうことなんだろうなって思う。
だから癒やしになるんだよねきっと。
みんながイガイガして気をつかいあうところでも、
一匹いるだけで、みんながそこに集まって、
自然に会話ができる。
本人(犬)は自覚ないかもしれないけど、
それがすごく、ありがたかった。

思春期にペット、いいな!
ウチは、風花のクラスでヤギを飼いはじめてから、
みんなで学校に世話しにいったり、
ヤギの話題で盛り上がったりしてるよ。

動物の力は大きいよね。
ずっと、次女Nが飼いたいって言ってたから、
それが、この家に引っ越して良かったことだった。

お母さんの笑顔

ここからまた数年で子供の環境も変わるから、
この先、何を主体にしようかなっていうのは、考える。
人と繋がりながら生活したいっていうのがあって、
私が求めてるのがたぶん、家族単位じゃないんだよね。


おお!

家族はもちろん大事なんだけど、
そこにそれぞれのコミュニティーが
プラスアルファで欲しくて。
その化学反応を見たい、って思う。

オレもそれはまったく同じだなあ。
家族の中だけで閉じるよりも、
もっと流動的な、
広い繋がりの中で生活をしたいって思う。

そういう場を提供することができたらいい、
ってのは、ずっと考えてる。
どんな人でもおいで、っていう場。

誰かに何か聞いてもらいたいって時に、
ふらって来て、私が話し聞くよでもいいし、
他の人と接してるうちに元気になった、でもいいし。

「住み開き」っていう概念があってさ。
自分の家の一部を公共のスペースとして開放する、
っていうのなんだけど、近いかもしれない。


そう、そういうのがしたい!

老後というか、次のライフステージを、
最近ちょっと考えることがある。

老後!
考えてるの?

Mが高校を卒業するのがもう間近だから、
私も次のライフステージを考えるようになってきた。

ああー、そろそろそういう年代だよな。
さおりは、結婚と出産が周りより一足早かったからね。

Nが高校を卒業するまでの4年は
ここにいるつもりでいるけど、
でももし、付属の高校じゃない学校に進学するなら、
別に東京にいなくても、ってなるからね。

海外留学ってこと?

それもあるし、
地方の高校で全寮制のところもあったりするじゃない。
今の学校にそのまま進学するのも、
離れるのも好きにしていいと思ってるから、
なんでもありだなと思っていて。

なんでもありだね。

そうしたら、ここに住んでなくてもいいし、
絶対こうじゃなきゃっていうのがないから、
フレキシブルにできるよね。


ダンナさんの仕事は、
どの場所にいてもできるの?

全部フルリモート。
たまに打ち合わせに行ったりするけど、
基本は家で仕事してる。

じゃあ普段、二人とも家にいるんだな。

そう。
私、家の外のことは張り切ってやるんだけど、
家の中のことはやらないから、
その落差が激しい、って娘たちに言われてて。

そうなの!?
それはちょっと意外。

「家の中では全然やんなくてさ」、
みたいな話をみんなにしても、
「またまた、そんなことないでしょ」って
よく言われるんだけど。

「そうは言っても普通にやってるでしょ」と。

でも、ほんとにやってなくて。
普段はお弁当もダンナさんが作ってくれて、
子どもたちを送り出してくれてるから。

あ、そう!
その時さおりは?

朝ドラが始まる頃に起き出してくる、みたいな。

いいねえ!


いずれ愛想をつかされるかもしれない(笑)。
毎月1週間くらいダンナさんが出張に出てる期間があって、
今がちょうどその期間なんだけど。
その間だけは頑張んなきゃって思って。

あ、じゃあ今、
頑張ってるターンか。

その間は、私なりに気を張って、
朝起きて、子どもたち見て、ご飯作って。
でも、1週間が限度で、
それを越えると体にガタが出てくるの。

えええ!?
そんなに力を出し尽くしてるんだ?

私にはやっぱり家事が向いてないんだと思う。
ダンナさんが出張から帰ってきた途端に、
朝起きれなくなるんだよね。

気が緩んじゃうんだな。

ダンナさんがいることに、
完全に体が甘えきってる感じ。

面白いなあ。
ご飯も、ダンナさんに任せてる感じなの?

とくにお願いしてるわけではないんだけど、
気づくと「今日なににする?」って聞いてくれて、
買い出しも行ってくれて。
「これとこれが作れるけど、何がいい?」って。


ほう!ほう!

お弁当もそんな感じだったりとか。
そのおかげで私も仕事ができてるから、
すっかり任せきりになっちゃってる。

それがでも、自然体なんだろうね。
イヤでやってるわけじゃなさそうだから。

昔、私、大泣きしたことがあって。
私がリビングの机で仕事をしてたとき、
ダンナさんが食器を洗いながら、
フーッて大きなため息をついたことがあったの。

おお!

(これって、怒ってる?)って思って。
そこで、できてない自分を責めて、
申し訳ない気持ちになって、ワーッて泣いて。

それを伝えたら、
「え?そんなこと考えてたの?」って。
「僕は洗い物は、自分の考えを整理できる時間で、
ため息も、考え事の時に無意識に出てるものだから、
さおりに対してどう思ってるとかは全然ない」って言われて。

あ、じゃあ、普通に甘えていいのかな、って
甘えてたら、今みたいになっちゃったんだけど(笑)。

むしろ、バランスいいんじゃないかな。
世の一般的な基準に照らせば、
ダンナさんがそんなに家事やっててスゴい!ってなるけど、
男女のフィルターをかけずにフラットに考えたら、
そんなに偏ってるわけでもない気がする。


そうだね。
意図的にそうしたわけじゃないけど、
学校関連の行事とか、子どもの人間関係とかは、
私が好きで関わりたいことだから、全面的に任せてもらってる。

他の人からすると「大変だね」って思われることだけど自分は好き、
ってのは才能で。
得意なことを自然にやってるのは、幸せなことだと思う。
夫婦によって、ちょうどいいバランスって違うから、
正解もないし。

そう、それは娘に言ってる。
いわゆる「お母さん」とは違うかもしれないけど、
こういうバランスもあるよって。
そしたら、Mは、
「パパみたいな人と結婚したい」って言うの。

最高じゃん!

(N) 顔じゃなくて性格ね。

(笑)顔もいいと思うけど。

顔はパパ、タイプじゃないから。

それは、Nのタイプじゃないのね。
パパ顔濃いから、はっきりしてていいじゃないの。

まあね。
薄いよりは。


ダンナが言ってるのは、
とにかく私が笑顔でいることと、
家庭の中が円満であることが大事だって言ってて。

ほう!


私が無理をしたり、
できてない自分を責めて苦しくなるよりも、
笑顔でいてくれたほうが俺は助かる、って。

そうだよなあ。
どんなに家の中がちゃんとしてても、
お母さんが笑顔じゃなかったら意味ないよ。

それを聞いてから、
ちゃんとできなくて悶々としてるときとかは、
甘えていいんだよね、って思い出す。

もともと、人に甘えられない性格で、
自分でやんなきゃって思うタイプではあったの。
だけど、だいぶそれが剥がれてきた感じ。
だから今は、生きるのがすごい楽になった。

なんでも屋の気質

あっきー、
この後の予定は、新宿だっけ?

そう、新宿に18時半。

じゃあ、
18時過ぎくらいに出れば間に合うね。

今日は横浜から、新宿乗り換えで来たけど、
ほんと近いね。
電車の本数も多いしさ。

そう、荻窪に住んで、
新宿や東京駅に出やすくなったのは便利だし、
この街が好きだっていう人が多い理由が、
住んでみてわかった。


中央線沿線は文化的な色が濃いから、味わい深いよな。
Nちゃんから見ると、荻窪って街はどうなの?
好き?

嫌いではないけど、
商店街が汚い。


(笑)それが味わいなんだけどね。

でも、食べ物は美味しい。

それどこのお店のこと?

隠れ家的な韓国料理屋さんとか美味しい。

食べ物屋が多いのはいいね。

私はあんまり飲まないけど、
もし、飲める夫婦だったら、
飲み歩ける店が相当あるんだろうなと思う。
そういう場で出会う出会いもあるだろうから、
そこがもったいない気がしてる。

たしかに。
バーとか居酒屋のカウンターって、
はじめましての人とでもつながりやすいから、
あの空間はオレも憧れるな。

昨日、サトアイ(佐藤愛)の友達で、
最近荻窪に引っ越してきた人とお茶をしたんだけど。

うんうん。

彼女は荻窪に来たばかりで、
保育園のこととかわからないみたいだったから、
LINEグループ作って、近所に住んでるミサ(宮坂ミサ)をそこに入れて。


繋いでるなあ。

そういうのをつなぎ合わせたりとかが好きなの。
知らない環境の人同士を引き合わせて、
つながったりすると面白いじゃん?

「ここそもそも、何つながりだっけ?」っていう。

そうそう。
私もずっと面倒を見続けるつもりはなくて。
きっかけだけ作って、軌道にのったら、
あとはそれぞれ勝手にやって、って感じ。

たとえばさ、
スナックのママとかやるのはどうなの?
すごくイメージ浮かぶんだけど。


世話焼きのおばちゃん、みたいな?
結婚相手とか探しちゃいそうだよね。
あなた、この人どう?」って

そうそう!
さおりに向いてるんじゃないか、それ。

好きかもしれない。
だから、自分がもっとお酒飲めたらなーって思うの。

いやいや、
べつに酒が飲める必要ないんだよ。
自分が飲むのはウーロン茶でもいいんだもん。
全然問題ないよ。

そうか。
スナックのママね。
それもありかもね。

こういうママ、いそうだもん。
「スナック沙織」って名前も違和感ないし。
悩み相談にのったりさ。

なんか人の悩みを吐き出してもらったときに、
その糸口を一緒に探して、
こう変えたらどう、とか解き方を考えるのが好き。
人もそういう感じで、
こことここがくっつけば面白いかなとか。

ああ、それは高度な技術だなあ。
紹介って、ただすりゃいいわけじゃなくて、
お互いの相性とかいろいろ考えないといけないからさ。
そういうの、向いてると思うよ。


名前のある職業があんまりピンときてなくて、
自分の中では「なんでも屋」なんだよ、
その場に応じて、必要な役割を探す、
オールラウンドのコーディネーターみたいのが
性に合ってるんだと思う。

やっぱり、スナックのママ、
いいんじゃない。


Nちゃんもそう思う?
ほんと、聞けば聞くほど、近い気がするんだよ。

お母さん夜いなくなっちゃうけど。

その頃は私、社会人とかだろうから、
関係ないんじゃない?
晩ご飯も、お父さんがいれば大丈夫だし。


スナックのママも、ご飯作るわけじゃなくて、
他の人に作ってもらうやつだよね。
私は、カウンターに座って、
話し相手してるだけのママみたいな。

ほんと、
そういう人が向いてるんだよな。

スナックのその役割を、
対子供にするとしたら、何ができるかな?

住み開きでもできる気がするし、
「こども食堂」も近いと思うな。

ああー、
「こども食堂」の場所だけ提供して、
ご飯作るのは誰かやってもらう版、だよね。

ぶはははは!
そこは頑なに、他の人に任せたいんだな。


今、子供たちの友達とかが来る時は、
そんな感じで、ご飯も勝手に作ってもらって、
家を好きに使ってもらってる。
そこは敷居を作りたくなくて、
家でうまくいってない子たちに、
駆け込み寺的に、来てもらったり
できるようになりたい。

あれみたいじゃん、
ドラマの「さくらの親子丼」。


あ、そうだよ!
そんな感じ。
あともう一個思い出した、
寺子屋だ

あー、それはさらに近いかもな。
なにしろ、ご飯作らなくていいから。

場所はスナックじゃなくてもいいんだけど、
なんか、人と話してたいんだろうなと思う。
完全に一人だったら私なにしてるんだろう・・?
今年の年末年始、娘二人ともホームステイで家にいないのね。

あ!そうか。
バンクーバーとフロリダに行くんだよな。

仕事が終わって年末休みに入ったら、
私何するんだろう、って思うもんね。


どっか旅行行ったらいいじゃん。

んー、でもそれでどこ行きたいってのがさ、
浮かばないんだよね。

一人旅行ってしない?

一人はない。
たぶん苦手だと思う。

えー、
わたしは一人で旅行したい。


誰か話し相手がほしい。
あんまりパパ話さないから。

話しゃいいじゃん。

(オレオに向かって)
話すのはオレオのことばっかりだよな。


オレオがかすがいになってるなあ。

何しようかな。
家の掃除でもするか・・。

バンクーバーかフロリダに行っちゃう、
っていうのはないの?

ホームステイ先に?

「ジャジャーン、お母さん来ちゃいました」って。

どうでしょうか?

・・・(苦笑)

無駄遣いしないで、家にいてください。
(2023年11月 荻窪「麻生邸」にて)

清水宣晶からの紹介】
さおりは、「母的なもの」を豊富に備えた人だ。
そこには、優しさだったり、生活の智恵だったり、面倒見の良さだったり、世の中を円滑にまわすためのいろいろなものが含まれている。
そしてその対象は、太陽のように分け隔てなく、みんなにふり注がれているように思う。

どの子どもを相手にしても、同じように話しをして、教えて、育てる姿。
大勢のなかで一人寂しそうにしている人を気にかけて、放っておかない姿。
そういうさおりの姿に、僕は大いなる慈愛を感じる。

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