物井光太朗

サックス吹いてご飯食べています。
猫と車とトロロ蕎麦をこよなく愛し、夕焼けに心打たれる繊細さと、意外に義理人情に厚い面を持ち、見かけより少ーし善人な、三十路中盤。

『時間』や『想い』を『音』にすることばかり考えています。
ぜひ一度演奏聴きにいらしてください。

東邦音楽大学を首席で卒業。
第68回読売新聞社主催新人演奏会出演。
'08韓国群山にて現地サクソフォンクラブの招待により公開講座とコンサートを開催。
都内ライブハウスでのライブ活動の他、J-POPアーティストや映画サウンドトラックなど数多くのレコーディングに参加。ヤマハPMS認定講師。
2013年8月 初のリーダーアルバム『Open the door』発売予定。

物井光太朗web site
http://monoikoutarou.jimdo.com/
今日も明日も吹いてます
http://ameblo.jp/urotaukoinomo
(2012年3月 渋谷「ウーピーゴールドバーガー」にて)

完成されていない楽器

(物井光太朗:) だいたい決まった。

(清水宣晶:) どれにする?

この、ウーピーゴールドバーガーにした。
とりあえず、店の名前と同じやつで。


僕はじゃあ、
この、ヘレナボナムバーガーで、
ハラペーニョを追加で。

ウチの中学校(港南台第一中学校)ってさ、
なんか変わってて、吹奏楽部がなくて、
ジャズ・オーケストラ部だけだったよね?

そう。
だから、部活で音楽やりたい人とか、
クラシックやりたいっていっても、
選択肢がジャズしかない、って感じだった。

ジャズ・オケ部を選んだのは、
音楽が好きだったからなの?

祖母が、何か一つ楽器をやってみなさい、って言って、
それがきっかけで楽器を始めたんだけど、
その当時はなんにも音楽のこと知らなかったし、
楽譜もまったく読めなかったね。

じゃあ、最初っからジャズやるって決めてたわけじゃなくて、
たまたま入った部活がジャズ・オケだったんだね。
もし違う中学校に行ってたら、
今、サックスはやってなかったってことだな。

そう、しかも、小学校は違う学区だったところから、
ちょうど中学校に入る直前に、引っ越してきたからね。
ほんとうに、まったく偶然だったけど。


一中の校歌って、
ものすごく、カッコよかったよね。

あ、覚えてる?

あんなに記憶に残る校歌は、なかなか無いと思うよ。
ちゃんとしたジャズ・オーケストラで演奏してたから、
盛り上がったってのもあるだろうけど。

曲と演奏と、両方だろうね。
あれ、校歌なのに、三拍子だったんだよ。
途中で、ドラムソロなんか入ってたり。

イントロもドラムから入るし、
もともと、バンドでやるのに向いた曲だったな。

ほんと、校歌としては、
かなり斬新だったと思う。

物井くん、高校の時も音楽やってたの?

高校では、フュージョン系のバンドをやってて。
EPICソニーのバンドにちょっと在籍してたことがあって、
まだバブルの時代で、ディスコで吹いたりとか。
そん時に初ギャラをもらったのが、すごい嬉しかった。

バブリーだなあ(笑)
高校生で、ギャラもらってたのか。

それで味をしめちゃったんだろうね。
楽器吹いて、バイトにもなっちゃうのか、って。

その頃は、既に、
プロになるっていう意識はあったんだ?

プロになるぞ、とは思ってたんだけど、
どうしていいかわからなかったんだよね。
で、とりあえず音大に行こうと決めて。

音大だと、
試験も実技なんだよね?

実技は、やっぱり緊張するよ。
ホールみたいなところで、先生がズラーッと並んで、
そこで演奏する感じだね。
コンサートじゃないから、演奏終わっても拍手もないし。
もう、あの試験だけは、今思い出しても緊張するね。

そういえば、小中の頃も、
音楽のテストって、ひとりひとり教室の前に出てって、
みんながいる前で、やってなかった?

歌ったり、リコーダー吹いたりしてたよね。

あれ、超緊張したよなあ。
今考えたら、よく、あんなことやってたよ。

クラスの誰かがゴキゲンな演奏しても、
ウォー!って盛り上がるわけでもないし、
あれでみんな、音楽の授業嫌いになっちゃうよね。
あと、普段聴いてる音楽と、
授業で聴く音楽の温度差がありすぎるし。

子供の時は、バッハがどうとか言われても、
まったく興味もてなかったけど、
でも、今はむしろクラシックとか、
ちゃんと聴いたり、勉強してみたいなあ。

そう、それと歴史をからめて勉強したりすると、
さらに面白いと思う。
サックスが出来たのは、1800年代の中頃ぐらいなんだよ。
近代に開発された楽器、っていう感じで。

あ、そんな最近のものなんだ?

その頃、パリ万博っていうのがあって、
バドワイザーとか、いろんなものが出てきた時代に、
サックスも、ボン、と生まれてきたんだよね。

1900年の万博って、
世界中から、当時の最先端のものが集まってて、
ものスゴい熱かったっていうよね。

だから、現代の楽器なんだよ。
ニーズがあったところに上手くマッチしたんだろうけど、
それをアメリカのミュージシャンが使い始めて、
世界中に広がっていったんだよね。

それ以前の楽器と比べて、
進化してるの?

操作性が、理にかなってる感じ。
その時代に、金属の加工もすごく発展して、
メカニカルなものが、製造出来るようになったんだろうね。
もうちょっと後になると、ギターみたいに、
電気につないで大きな音を出す楽器が出てくるけど、
サックスは、電気を使わずに大きな音を出せるようになってる。

ちょっと、楽器、
見せてもらってもいい?

あ、もちろんもちろん。

店によっては、吹いちゃうんだけど、
ここはちょっと、吹けない雰囲気だね。

この、メカっぽさがたまんないよなあ。

いいよね。
自分も、たぶん最初、それで選んだと思う。
音で選んだとかじゃなくて、
ちょっと見た目が複雑でカッコいいっていう。

そう、なんかこの、見た目が、
子供心をくすぐるものがあるんだよ。
サックスっていうのは、
他の楽器と違うのはどういうところなの?

指でこう、穴をふさぐ楽器を、木管楽器っていうんだけど、
その中でも管が円錐形の形をしてるのは、サックスしかないよね。
クラリネットとかフルートとかは全部、直管だから。

あ、そうか。
トランペットなんかは、
どうやって音を変えるの?

トランペットとかホルン、トロンボーンは、
指や腕も使うんだけど、基本は、口で音を変える。
それを金管楽器っていうんだけど、
サックスは、ジャンルとしては木管楽器になってるんだよね。

あ、そうなんだ!?
おもいっきり金属だけれども。

カテゴリー分けとしては、
リコーダーみたいに、指使いで音を変えるのは、
木管楽器ってことになってる。

ルーツが木だったからってことか。

フルートも、今は金属だけれど、
木管の分類になってるんだよね。
その、金管と木管、両方の楽器の要素が入ってるのが、
サックスっていう楽器だって思っていいかも。

なるほど。
いいとこどりしてるんだなあ。

そう、だから、華やかな音も出るし、
ちょっと陰鬱な音も出るし。
吹く人によって、
ここまで音が違うのはサックスだけだと思うんだよね。


あ、そう!?

ピアノとかギターは、楽器とセッティングが同じだったら、
だいたい同じような音が出てくるんだけど、
サックスに関しては、吹き手によってかなり違う。

その人の色が出るんだ?

もう、ニュアンスとかじゃなくて、
音色が変わっちゃうんだよね。
逆に言うと、まだ不完全な楽器とは言われてるんだけど。
不完全な部分を、そのまま残しておいた感じ。

昔の楽器と比べて、出る音の幅が広いのかね?

他の楽器と比べたら、登場してからの歴史が浅いから、
まだ、洗練されてないってことかもね。
だけど、そこは、洗練されてなくて良しとされてる。
その分、いろんな人の演奏が楽しめる面白さがあるんだね。

そうか。
やっぱり、その場のアドリブで、
自由に演奏するのに向いた楽器なんだな。
クラシックなんかだと、あんまり人によって、
違いが出っちゃたら困るもんね。

かもしれない。
あんまり、「あいつの音ゴキゲンだよね」ってなると、
クラシックの世界だと、
ちょっと待て、ってことになっちゃう。

そうなんだろうね。

ジャズの場合だと、二人がサックス吹いてて、
同じだとつまんない、って感じになる。
同じテナーサックス吹いてても、
全然違うよね、ってのがあって、
そこは、サックスっていう楽器の、
他にはない魅力かもね。

聴いてる人も、
そういう演奏を良しとするんだな。
面白いなあ。

なかなか、面白い楽器だよね、
こうやってしゃべってると。
って、今更ながら思うけど(笑)。

ジャズとスピーチ

オレ、いまいち、感情と演奏が連動するって感じが、
どういうものなのかわからなくてさ。
演奏の仕方で、感情ってのは表現出来るものなのかな?

これ、答えになってるかわからないんだけど、
演奏をしてる時の伝え方っていうのは、
スピーチに近い感じなんだよね。


ほうほう!

大統領の就任演説のように
意図的に朗々とゆっくりしゃべる時もあるし、
クレームの電話で、頭きた!って、
ワッとしゃべる時もあるし。
そういう時の喋り方に近いのが、
感情をのせるってことだと思うんだよね。

なるほど。

バッと勢いをつけてしゃべりたい時っていうのは、
ビートが1,2,3,4っていう四拍子があったら、
そのビートのちょい前に入っていくと、
「来て来て」、っていう感じになるし。
音の強い、弱いで表現する方法もあるし、
音の数とかでも、また、変わってくる。

ああ、スピーチっていう感覚で考えると、
それはよくわかるなあ。

で、それが面白いのは、
言葉じゃなくて、音っていうもので伝えてるから、
聴いてる側が、それぞれ、
いろいろな解釈が出来るっていうところだと思う。

そうか、言葉でイメージを限定してないからね。
スピーチでいうところの、
使う単語を選ぶ、っていうようなことは、
演奏でも出来るものなのかな?

それは、たぶん、、
ドレミの音階を選ぶところになるのかな。
たとえばCmaj7っていうコードがあった時、
そこに対して、何の音を合わせていくか、
っていうのが近いかもしれない。

なるほどなあ。

ジャズの場合は、縦と横の軸があって、
リズム的なところと、ドレミをチョイスするところを
瞬間的に同時にやってるから、しゃべってる感じに近いんだと思う。
だから、雑談も出来るし、討論会も出来るんだけど、
クラシックの場合は、話す原稿は決まってて、
それをどう読むか、っていうところが人によって変わる。

ジャズってのは、
だいぶ、ルールが自由なんだな。


ジャズって何か、っていう時、
笑点と同じだと思うんだよね。


ほう!
それ、どういうこと?

お題があって、それに対して、演奏する人が、
面白いとか悲しいとか楽しいとかの解釈をして、
即興で応えていく、っていうのがジャズだね。

譜面みたいなのは必要ないの?

一応、簡単な進行を書いたものは用意する。
だから、30分番組の進行はあるんだけど、
中身がどうなるかまでは細かく決まってない、
っていう感じ。

ここらへんで盛り上げて、ここでオチ、
とかってのも決まってないの?

それは全然書いてない。
コード進行が書いてあって、それだけがルール。
あとは、イントロ、エンディングをその場で決める感じ。
基本的な中身とか、どう盛り上げるかは、その時次第だね。

最低限のものだけが共有されてるんだな。

一応こうしましょう、っていうのは多少あるけどね。
ほとんどリハーサルをやらない感じ。

いいね、それ。
しかも、初めて会った人でもいきなり、
セッションが出来ちゃうんだ。

そうそう。
それは、ジャズのすごく大きなメリットだよね。

音楽を仕事にするということ

学生時代までと、
プロとして活動するようになってからって、
何か、心境的に変化ってのはあった?

前までは、技術を追い求めてたんだけど、
でもそこは、本当に上手い人には、かなわないんだよね。
大学を出た後、それが、わかってきたかな。
サックス世界ランキングみたいなのがあったとして、
1位にはなれないし、居続けられない。
しかも聴いてる人がみんな、1位を求めてるかっていうと、
そういうわけでもないからね。

うんうん。

音楽は、技術的なものは最低限必要なんだけど、
一秒間にいくつの音を出せるかっていうことよりは、
より、人の感情に近いものを表せるかどうか、
っていうほうが問われてて。
それは、ひょっとすると、
あんまり上手すぎない人のほうが出せることがあったりとか。

正確に、機械のように演奏出来るからいい、
ってわけじゃないんだね。

機械っぽい打ち込みの音楽のほうが、間違えないし、
文句も言わずに演奏をし続けるのはいいんだけど、
やっぱり、みんな、人間が演奏しているほうを聴きたがるよね。
人間は間違えるし、
「なんだ、金返せよ」、って言うこともあるんだけど。

そっちのほうが面白いんだろうね。

最近、面白いと思ったのは、
将棋で、名人と機械が対決した、
ってやつがあったじゃない。

米長名人とコンピューターの試合で、
名人が負けちゃったってやつ。

そのうち、どんどん進化して、
羽生さんだろうが、誰だろうが、
機械にかなわなくなっちゃうんだろうけど、
でも、たぶん、人間の対局をみんな見たがると思うんだよ。
音楽の世界も、コンピューター音楽に席巻された時期があったけど、
結局やっぱり人間の演奏のほうが面白いと思う。
人同士が向き合った方がね。

生身の人間のキャラクターが、
演奏に出るってことだね。

そういう、キャラクターを出そうと思ってきたのが、
20代の後半ぐらいかな?
ひょっとすると、もっと最近のことかもしれない。
で、最近、ことに演奏するのが楽しいね。
30代超えてからのほうが、
演奏はすごく面白くなった。

ひととおりの技術を習得したら、
あとは、いかに自分らしさを出せるか、
っていう世界に入ってくるんだな。

まあ、それもまた、
「自分らしい」とは何ぞや?
ってことになってきちゃうんだけどね。
ここが一番難しかったんだけど、
これは、たぶん、まじめに生きてればつかめるんだろうと思う。

(笑)「まじめに演奏してれば」、じゃなくて、
「まじめに生きてれば」、なんだね。

そう。
「まじめに遊んでいれば」でもいいんだろうけどね。
そうすれば、たぶん、自分らしさを音として見せられると思う。

そうか。
それ、若いうちじゃあ、
なかなか難しいことだね。

なかなかね。少なくとも最近までは難しかった。
若い時は、あれもこれも楽しいから。
その楽しいものも削ぎ落して、
これだ、っていうものに絞っていってもいいし、
逆に、世俗的なものを突き詰めるやり方もあるだろうし。

うんうん。


10代ならではの、ガッとくるエネルギッシュなものはあるし、
その時でないと演奏出来ない、得難いものはあると思うけれど。
でも、30代、40代の人の演奏を聴いてると面白い。

20代の初めぐらいまでって、
途中経過として、音楽を仕事にしている人は多いと思うんだけど、
それをその後も、ずっと継続してるってのは、
やっぱり、すごく大変なことなんだろうね?

僕の場合は、これが、困ったことに、
大変だと思ったことがないのよ。

ぶはははは!
そっか。
まあ、そうじゃないと続けてないよなあ。

それで良かったなと思ってる。
もっと稼げる仕事っていうのも、そりゃあ色々あると思うんだけど、
音楽を選んだことに、まったく後悔はないね。
音楽っていう、そのものだけで、もちろん素晴らしいんだけど、
音楽を仕事にするっていうのは、
これは、とても面白いことだと思ってる。
「何が?」って言われると、難しいんだけどね。

それは、よくわかるよ。
その道の本職として関わることで、
はじめて感じられるものは、確実にあるだろうと思う。

お金をもらって吹いてる、
責任と誇りを持った音っていうのは、
好きだし、いい音だと思うかな。

そういうの、あるだろうね。
仕事であることで、吹いてるほうも集中して、
相手もちゃんと聴いてくれる、っていう、
緊張感がある場が生まれるってことは起こると思うよ。

いい音を出した瞬間、それを聴いてる人の感情が動くんだよね。
感情を動かすことが出来る仕事っていうのは、
なかなかいいもんだと思う。

ここ数年は、特にそれを感じる。
そういうのもあって、
今、すごく音楽を面白いって思ってるんだろうね。
(2012年3月 渋谷「ウーピーゴールドバーガー」にて)

清水宣晶からの紹介】
物井くんは中学校時代の同級生で、その当時から既に、サックスを吹いているオシャレな人という印象があった。僕たちの通っていた中学校は、吹奏楽部の代わりにジャズ・オーケストラ部というものがあり、その実力の高さには定評があって、入学式や文化祭のようなイベントの時に、ジャズバンドが演奏するカッコいい校歌を聴くと、いつも気分が高揚した。

物井くんがその後も音楽を続けていて、ジャズバーでライブをやっているということをfacebook上で知り、その演奏を聴きに行って、20年以上ぶりに再会をした。
ジャズに詳しくない僕にもはっきりとわかるぐらいに、その演奏のレベルはとても高く、すっかりプロのミュージシャンとしての姿が板についていた彼の、僕が知らない20年の間に何があったのかを知りたいと思い、今回、話しを聞きに行った。

好きなことを仕事にするというのは、とりわけ、音楽で生活をするというのは、人一倍の根気と努力が必要なことだったのではないかと思う。それは僕の勝手な思い込みなのかもしれないけれど、少なくとも、趣味で音楽をやるのとは違う覚悟をどこかに持っているのだろうと思う。
でも、そんなことをまったく感じさせないぐらいに、物井くんは、軽やかに毎日を楽しんでいるようだった。そういう彼に、サックスという楽器と、ジャズという音楽は、とてもぴったりと合っている気がする。

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