有紀天香

 和歌山市出身、1996年デビュー。

 『ヴァンテーヌ』の誌面に取り上げて貰ったり、『電波少年的放送局』の専属マジシャンになったり、『テンヨーマジックフェスティバル』に三度も出演させて戴いたり、様々なチャンスを、犬も歩けば棒に振って来た人生です。あ、スネークマン・ショー、お好きですか?

 早く大人になりたかったのになり損ねた口惜しさから、家庭教師から始まり、印刷会社や図書館で中国語系のバイトをしたり、関西ノリのホテルで宴会予約の仕事をしたり。R社のG8で受付・交換嬢までやってしまったのですが、銀座林檎店オープンのニュースに居ても立っても居られなくなり、マジシャン前提で雇って貰い、IS&TというよりはCRM的な仕事をさせて貰いました。

 様々な文科系の副業をし過ぎて、それだけでanotherな人生が一人前、語れそうです。理想の上司にも出逢いました。

 その人に教わったことですが、まぁ、何をやるにしたって、お金を頂戴するってことは、プロフェッショナルじゃない?だから、マジック関係以外の仕事を、お金の為だけでなくやるってことを、イケナイこととは思わないのです。何をしていても、マジシャンとして、生きてはゆきたいのですがね。

北京で見たマジック

(清水宣晶:) 天香さんは、
マジック始めたのって、いつからなの?

(有紀天香:) 始めたのは、大学に入ってからで。
早稲田大学にマジッククラブっていうサークルがあって、
そこに入部してから。

その前から、興味はあった?

土居まさるが司会をやっていた、
「日本一マジック大賞」っていう番組が、影響を与えていて。

毎年お正月にやってたやつかな。

そうそう。
その中に学生枠があって、全国の学生が出てくるんだけど、
鳩出しをやる素敵な人がいて、
それが早稲田の和田年史さんていう先輩でね。

テレビ番組が最初のきっかけだったのか。

それで、マジッククラブいいじゃん、て思ったんだね。
もともと演劇に興味があったから、早稲田の文学部に行くことにして、
入学した後、演劇系のサークルも色々見たんだけど、
まあ、マジッククラブも行っておこう、と。

プロになろうって思ったのは、いつの時点なの?

それがね、その転機は北京にいた時なんですよ。
日中友好協会の試験を受けて、タダで行けるっていうプログラムがあって。
大学時代に一年近く行ってきたんだけど。

それは随分と長いなあ。

そこで英語圏に行ってれば、また人生違ったんだろうけどね。

なんで中国に留学しようと思ったの?

日本有事の際のことを考えて(笑)、
やっぱり、外国語は必須技能なんじゃないかと思ったんだね。
で、中国語を小さい頃から勉強していて。

英語じゃなくて、中国語を勉強したんだ?

姉が既に英語を勉強していて、
神童と言われるくらいに出来がいい姉だったから、
その姉と同じことを後からやるのはしんどいだろう、と。
そしたら、ロシア語か中国語かな、っていうことで。

お姉さんとは逆張りで、
共産圏に賭けることにしたんだね。

「これからは中国の時代」っていうムードだったし。

中国語っていうのは、
将来、中国で仕事をすることを考えて勉強してたの?

サイマルアカデミーとかに通って、
通訳の勉強とかもしてたんだけど、
もともとやりたいことがエンターテイメント系だったから、
あんまりそことは繋がらなくて、それがツラくて。

中国は、あんまりエンターテイメントってものが
文化として根付いてる感じじゃないものね。

そう、その点で言えば、フランス語とか、
ロシア語も良かったんだよね。

ああ、それでロシア語なのか!
ロシアなら、芸術的な下地がありそうだね。
でもさ、ロシアではマジックなんていう娯楽的なものはあるの?

話が旧ソ連に拡大するけど、バレエやサーカスの学校が有る訳だし。
少なくともウクライナには、常設の劇場で公演を打っているマジシャンが居て、レベルは高いと思う。
コンテストに出てくるキエフなんかのマジシャンなんて、結構ポテンシャル高いよ。
情報も材料もないところから出てくるから、今まで見たことないようなマジックやるわけ!

「なんだこりゃ」みたいなの?

マントを裏返すと
マトリョーシカ人形が出てきて、どんどん小さいのが並んでいく、とか。
ああー、そうくるか、っていう新鮮なのが多くて、
すごくクリエイティブなんだよね。

中国の場合は、エンターテイメントっていうと、
マジックっていうより、雑技団になるのかな。

そうそう、その、雑技団員の友達が北京にいたんだけど、
日本に帰る直前の月に電話をかけてきて、
北京遊楽園ていうところにアメリカの魔術団が来て長期公演をやるって教えてくれてね。

うんうん。

そこで、出会いがあったわけですよ。
マーク・ウィルソンの息子の、グレッグ・ウィルソンていう人のチームと、ジョナサン・ニール・ブラウン夫妻のやっているマジックを、一ヶ月間、毎週毎週見に行って。

同じ公演を何度も見に行ったんだ?

真面目に勉強をしたいのか、通訳になりたいのか、マジックをやりたいのか、
よくわからなくなっていたところだったんだけど、
それを見ているうちに、
「やっぱりマジックやりたいわ」っていう気持ちになって、
中国語はどうでもよくなってきて。

そうなんだ!?
中国に行って、マジックやりたくなるなんてスゴいね!

そう、まさか、中国でマジックに出会うとは思わなかった。
日本での公演だったとしたら、そんなに毎週毎週見に行くなんてことはしなかったと思うんだけど、
同じショーを何度も見るっていうのがこんなに面白い、っていうことが初めてわかったんですよ。

ああ、なるほど。
ライブで同じものを何度も見るっていうのは、
ビデオを何回も見るっていうのとは全然違うよね。

そう、それはもう全然違って。
どこが「キモ」かっていうのがわかるんだよね。
この目線が重要なんだ、とか、
ここに魔法がある、っていうのが。

ネタそのものじゃなくて、そういうところに気付くんだ?

ネタは大体わかるんだけど。
実はネタの部分に魔法があるんじゃないっていうのが、わかってくるわけなんですよ。

面白いなあ。

ちょっとトチっちゃった時にどうやってリカバーするのか、とか。
あと、回を重ねるごとに、パフォーマンスにちょっとずつ直しが入ったりするのがわかるし。

観客のウケによって、これはいける、これはやめよう、
とか調整していくんだろうね。

そう、そういう面白さがわかってしまって。
そこが、やっぱり、転機じゃないかな。

中国語を勉強しに行ったはずが、マジックに開眼して帰ってきたんだね。

手先の器用さとマジック

マジックをやるには、
やっぱり、手先の器用さって必要?

ううん。
全然関係ない。

そうなの!?

ナポレオンズさんも言ってたんだけど、
不器用な人のほうがたくさん練習するから、結果的には上手くなる。

もともとが不器用でも、
練習すれば、いずれ出来るようになるのかな?

まずね、今までの人生の中で使ったことのない筋肉を、
使ったことがない方法で使うっていう場面が多いんですよ。
だから、今までの人生で器用だったかどうかっていうのは、ほとんど関係ない。

面白いな、それ!
かつて経験したことのない動きをするんだ?

うん。
たとえば、パームっていうんだけど、
(角砂糖を指差して)こういう物をつかむ時に、
こう、手のひらを使ってつかむ、とか。

たしかに、今までに一度もやったことない動きだわ。

こういうところ(指の裏側)にパームする方法もあって。
普通に生活してたら、絶対にやらない動きなんだよね。

それは、訓練すれば誰でも出来るようになるのかな?

出来ると思う。
超絶技法とか言っている人の技でも、特に日本人て器用だから、じっくりと練習すれば、3日もあれば出来るようになるんですよ。
それを、いかにエロティックに見せるかとか、
精神的重圧の中で失敗しないかとか、そういうことになってくると、
そこで差が出てきちゃうけれど。

日本人てのは、やっぱり器用なのかな?

小さい時から、お箸の使い方をマスターするっていう点で、
大きな関門を通ってきてるからね。
他の国の人に比べて、細かいことは得意だと思うよ。

仕掛けにマジックはない

素朴な疑問なんだけれど、
マジックっていうのは、どうやって勉強していくものなの?

ハーラン・ターベルっていう人が書いた、
マジック界のバイブルみたいな本があって。
古典的なネタはすべて解説され尽くしているんですよね。
だから、まずそれを勉強する人が多い。

じゃあ、プロ同士では、
もうお互い、手の内はわかってるんだ?

わかってる。
ちょっと原理を勉強した人だったら、
たとえカッパーフィールドがやるマジックだろうが、説明はつくんですよ。
でも、説明がつくっていうのと、実際にやれるっていうのはまた別の話しで。
パフォーマンスが見栄えがするかどうかっていうのは、違う問題でしょう?

そうか。
動きが美しい、とか。

ファンタスティックな感じじゃないと、いいマジックにはならない。
そうすると結局、人が魅力的かどうか、っていう話しになってきちゃうんだね。

なるほどなあ。
話し方とか雰囲気っていう部分は、その人自身の魅力だものね。

たとえば、松本幸四郎さんが鳩出しとかやると、
ものすごいカッコいい。

そういうのも、やることあるんだ?

明治座で公演とかする時に、ウチの鳩(※天香さんは鳩を8羽飼っている)を貸したりするんだけど、
もともとが役者さんだから、(ナポレオンズの)ボナ植木さんが演技指導とかをするとすぐに身につくんだね。

それでやり方を教わって、
その場ですぐにやっても、カッコいい?

カッコいい。
まさに、マジックがどこで生まれるかっていうのをわかってやってるから。
ネタとか技法に興味があって入った人に比べて、よっぽどカッコいい。

そうか。
ちゃんと、本質的なことを理解した上でやってるから、すぐにわかるんだ。

素敵な人がやると、ネタはどうでもよくなっちゃうんですよ。
ネタを考えることがどうでもよくなるぐらい、魔法の国に連れて行ってくれる人だったら、細かいところは気にならなくなるはずで。
最後までネタのことを言われてしまう、っていうのはパフォーマーの魅力が足りないっていうことなんだと思う。

それはでも、遠い道のりだね。
その魅力をどう伸ばすかっていうのは、ネタとか技術を伸ばすよりもずっと難しいことだろうし。

そう、仕掛けの部分にマジックはないんだ、って気がついてからが大変なんだと思う。
最初はネタを勉強するのに精一杯なんだけど、ある程度習得すると、いままで勉強してきたことの中にはマジックはひとかけらもなかった、ってことに気がつくんですよ。

おお!
じゃあ、マジックっていうのはどこにあるんだろう?

ちょっとした仕草だとか、タイミングだとか、セリフの間合いだとか、お客様との位置関係とか、仕掛けとは違う部分に本当のマジックはあって。

普通に考えられているのとは別のところに本質があるんだね。

逆に言うと、その、
仕掛けを超えたところから先は、それぞれが好き勝手に出来る部分で、
演劇を勉強してきた人だったら、その演技力を活かせばいいし、
ダンサーだったら、その動きを取り入れても魅力になるし。
そういうところが、マジックの奥の深さなんだと思う。

総合的な、人間力の勝負っていう感じだね。

上手い人って、計算ずくじゃない気がするんだよね。
体にそれが入ってて。
説明しようと思えば後付けの説明はつくんだろうけど、
こうすれば相手はこう反応する、っていうのを無意識のうちにわかってるような気がする。

そうなんだろうね。

ユージン・バーガーとか、ファン・タマリッツとかがそういう人。
そういうマジシャンて、僕、大好きで。
で、そういう人のレクチャーって、聞いても全然わからないの。

長嶋さんみたいなもんだな。

あっ、そうそう!
「ピャーっていって、シュっとやって」みたいな感じで。

レクチャーしてる本人からしたら、
「何で出来ないかな」って感じなんだろうね。

こっちは、何で出来るんだかよくわからないまま、
「素晴らしいレクチャーだったなー」って思って帰ってくるんだけど、
やろうとしても、やっぱり出来ないんですよ。

何で出来るんだかが、結局わからないんだ?

そういうのを分析する人が見れば、説明はつくと思うんだけど。
お客さんに触れさせたくないものがあったら、境界線になるような物を置いて、その内側に入れておくようにする、とか。
お客さんの利き手の側に立って、このぐらい足を開いて、このぐらいの距離にいると相手は自由に動けなくなる、とかね。

それはスゴいな!

触れてなくても、相手を自由に動けなくする方法っていっぱいあるんですよ。

なんか、合気道の達人みたいだね。

あはははは!
そうそう。

マジシャンも、達人の域に達すると、
きっと同じような境地に入るんだろうなあ。
(2009年12月 新宿「ブルックリンパーラー」にて)


清水宣晶からの紹介】
天香さんは、マジシャンという言葉がぴったりとハマるマジシャンだ。遠くにいてもすぐにわかる存在感があるし、常に華やかな空気が身の回りを包んでいる。
スーツとシルクハットでステージに登場し、風船や鳩を使った鮮やかなマジックを次々と披露する様は、僕の頭の中にある「マジシャン」というイメージがそのまま形になったような姿だ。

天香さんは、熱烈なアップルファンでもあるけれど、それもよくわかる気がする。MacもMagicも、人をわくわくさせるということを至上命題とするスピリットにおいて共通するものがあり、言葉によらずに一瞬で相手を魅了する力を持っているという点で、とてもよく似たもの同士なのだろう。

天香さんと話していると、心の底からエンターテイメントとマジックというものを愛しているんだということが伝わってくる。数多くの、一流のプロエンターテイナーと身近に接してきて、その魅力を全身で吸収してきた天香さんは、その魔法がどれだけ大きな夢を人に与えることが出来るものなのかということを知り尽くしているのだと思う。

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