山本大策

1978年広島生まれ。
法政大学社会学部卒業。
株式会社富士総合研究所(現みずほ情報総研株式会社)で、銀行ディーリング部門向けWebアプリケーション開発を担当。その後、フィードパス株式会社にて、SaaS・イントラ製品開発に従事、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズで開発コンテスト「Mashup Awards 7」の事務局長を担当。

2012年5月、「CoffeeMeeting(コーヒーミーティング)」の運営を中心とした事業を展開するため、株式会社レレレを設立。
http://coffeemeeting.jp/
シーズン中は、カープの試合結果に一喜一憂する毎日。AB型のやぎ座。
(2012年3月 銀座「SUZU CAFE」にて)

面白いことは人が教えてくれる

(清水宣晶:) 山本さんですか?

(山本大策:) 山本です。
清水さんですね。はじめまして。

こんにちは。
すぐに見つかってよかったです。

今度、「CoffeeMeeting」の
ステッカーを作ろうと思っていて。

待ち合わせの時、相手がどこにいるかわからなくて、
困ることありませんか?

今までは困ったことないですけど、
お互い初対面なので、
ちゃんと見つけられるかっていうのは、
いつも考えますね。

このカフェは割りと場所に余裕がありますけど、
スタバで、混んでる店なんかだと、
どこにいるかわからないですよね。
そういう時に、ステッカーがあると便利と思ったんです。

なるほど!
モスバーガーの番号札みたいに、
目立つ場所に置いておくんですね。


「CoffeeMeeting」では、
何人ぐらいにお会いになりましたか?

山本さんで4人目です。
僕は、一番はじめに会ったのが伴野さんで。
(※CoffeeMeetingの共同運営者の伴野智樹さん)
すごく話しやすかったので、最初の印象が良かったです。

彼は、人と話しをするのが好きですからね。
今、僕も、いろいろなユーザーの方と直接会ってるんですけど、
やっぱり、早い時期からサービスを使い始める人は、
面白い人が多いと思います。

それは、あるでしょうね。
新しいものにいち早く飛びつく人のほうが、
好奇心もあるし、感度がすごくいいと思います。

やってみてわかったことなんですけど、
僕よりもひとまわりぐらい若い、20代前半の人たちが、
「これいい」って言ってくれるんです。

若い人のほうが、ネット上で自分自身の情報を出すことに、
抵抗なくなってきてるんでしょうね。

そう、むしろ、なんで実名じゃないの?
ぐらいの感覚になっていて。

facebookとの組み合わせっていうのが、いいんでしょうね。
実名性とか、基本的なプロフィールの部分が、
facebookで担保されてるでしょう。

ほんとにそうです。
そこは、「ソーシャルランチ」の流れに乗っかった感じで、
実名だと、やっぱり安心感がありますよね。
プロフィールを見て、あんまりオープンじゃない人は
会わないほうがいいかな、っていうのも、
なんとなくわかりますし。

今までのソーシャルグラフっていうのは、
友達の友達をたどって、人とつながっていったわけですけど、
「CoffeeMeeting」の場合、
そういう連続性のあるつながりじゃなくて、
完全にワープして、まったくつながりがなかった人に
ダイレクトに届くっていうスゴさがあると思いました。

今までだったら、実際に人がつながるまでには、
メッセージを何回かやりとりしたり、
間にもう少しプロセスがあったと思うんです。
でも、twitterで文字数が短くなったように、
そこらへんの手続きとか文章が短くなることに、
抵抗がなくなってるんでしょうね。

そう、どんどん抵抗がなくなってる。
でもそれって、人の意識が、
一段階進歩したっていうことだと思うんですよ。

SNSって、そういう、
社会実験的なところありますよね。

バンジージャンプみたいに、
「次は、この高さで飛べるかな?」っていう。

どこまで意識が進んでるかを試されてるんですね。


「twitterで、思いつきをシェア出来るかな?」
「foursquareで、位置情報をシェア出来るかな?」
って、どんどん新しいことを試されて。
どこまでソーシャルに身を晒すことが出来るか、っていう
バンジージャンプを次々に飛んでるような感じですね。

僕は、一時期、進化の方向として、
コミュニケーションがネットの中で完結してしまうようになって、
リアルな身体のほうは、世界中のどの場にいても
関係なくなるんじゃないかって想像してたんです。
でも、その方向の進化が行ききった後に、
今度は逆の方向への揺り戻しがきて、
実際にリアルで会う場を重視する流れに変化している感じがします。

リアルのつながりがネットに場所を移す、
っていう順番だったのが、最近は逆に、
ネットのつながりがリアルに場所を移してますよね。

そう思います。
今、アプリやwebサービスも、
最終的にリアルの関わりにつながっていくものが、
求められてると思いますし。

やっぱり、人と会わないと、
あと、冒険をしないと、
面白いことにはありつけない
と思いましたね。
変な出会いもあるかもしれないですけど、
そこに飛び込んでいかないと。
面白いことは、やっぱり人が教えてくれると思うんです。

コーヒーミーティングが出来るまで

「CoffeeMeeting」が出来るまでの経緯を書いた
ブログを読ませてもらったんですけど、
リリースまでに、かなり計画的に進めてたんですね。


http://coffeemeeting.tumblr.com/
計画的に準備しました。
前にも、いくつか自分で作ったサービスがあったんですけど、
それは全然広がらなくて。
今思うと、個人サービスだからこのぐらいでいいか、
っていう甘えがあったと思うんです。
今回やってみて、ちゃんと考えて準備すれば、
やっぱり、ある程度広がるんだなあと思いました。

何の準備に、
とくに力を入れたんですか?

事前に、ユーザー登録をしてもらう窓口を用意して、
『近いけど遠い、あの人とお茶してみよう』っていうコピーと写真で、
最初に、コンセプトだけぶつけてみたんですね。
そうしたら、初日に100人くらい登録してくれたので、
ひょっとしたら、これはイケるんじゃないかなと思って。

まだサービスが始まる前なのに、
登録してくれる人がそんなにいたんですね。

そこがやっぱり、自信になりました。
ニーズはあるようだから、
じゃあ、やってみようか、と。

リリースまでの手順って、
何かのサービスのやり方を参考にしたんですか?

いや、こういう、リリース以前のプロセスのことって、
探しても、意外と情報がないんですよ。

そう!
スタート前の「メイキングオブ」みたいな開発話しって、
僕は一番興味があるところなんですけど、
なかなか表に出てこないんですよね。

それもあって、
自分があえてブログに書いてみたんです。

あの記事は、すごくいいと思いました。
読んでてものすごく面白いし、役に立ちます。


「リーン(LEAN)スタートアップ」っていう開発手法があって、
ベストな方法かどうかはわからないんですけど、
今回、それを使いました。

「dropbox」が、
スタートアップの時に採用した作り方ですね。

常にユーザーに問いかけて、
フィードバックをもらいながら開発を進めるんです。
最初にまずコンセプトを提示して、
その時点で、ユーザーに求められるものじゃなかったら、
作るだけムダだよ、っていう考え方で。

なるほど。

それで、事前登録をしてくれた人のうち、
10人か20人ぐらい、有名なブロガーの人とか、
使ってくれそうなユーザーの人にアポを取って、
直接、意見を聞いて回ったんですね。
そこで、どんどん機能を改善していったんです。

実際にスタートをする前に、
プロトタイプで充分にヒアリングをしてから、
リリースをしたんですね。

自己中心的なものを作っても広がらないと思って、
実際に使う人の、生の声をとにかく知りたかったっていうのと、
一緒に作る仲間を、まず作りかったんですよね。

そうか。
そうやって、リリースをする前に、
開発者みずからが意見を聞きに来てくれるっていうのは、
サービスを一緒に作ってるっていう意識になると思います。

そうなんです。
だから、その時に一緒にサービスを考えてくれた人たちには、
ほんとに感謝してますね。
「コーヒーミーティング」っていう名前も、
実は僕の発案じゃなくて、
最初は「Open talkin'」っていう名前だったんです。

なんか、
技術系の雰囲気がする名前ですね(笑)。

周りの人の感想を聞いてるうちに、その名前じゃ、
どういうサービスかよく伝わらないっていうことがわかって。
コンセプトから考えなおして、
「一杯のお茶の時間を共有する」イメージなんだ、と。
それがちゃんと伝わるような、
わかりやすい名前に変えることにしたんです。

ネーミングはすごく重要ですよね。
「Open talkin'」のままだったら、
理解してもらうまでに、時間がかかったかもしれない。

あと、「お茶」っていう言葉で、
だいぶライトなイメージになって、
幅広い層が参加しやすくなったっていうのはあると思います。
サービスが浸透していく上で、
女性が使ってくれたっていうのは大きかったです。

ああ!
それは、すごく大きいと思いますよ。
女性が多いと、場の安心感が全然違いますね。

最初の想定では、
ミーティングは1対1で会うものだし、
女性はあまり使わないだろうと思ったので、
事前に意見を聞いた人たちも、ほとんど男性だったんですよ。
web業界の人を中心にした、
20~30代の男性が主に使うのかと思ってたんですけど、
想像した以上に、女性がアクティブに活用してるんですね。
それは、正直なところ、驚きでした。

こういうサービスって、
実際に始めてみるまで、どうなるか、
まったく予想がつかないところありますよね。

そこは、ほんとに、
全然わからなかったです。

サービスリリースのタイミングも、
早すぎず、遅すぎず、
ちょうど、受け入れられる素地が出来た時と、
重なってたんじゃないかっていう気がします。

世の中的に、
こういうのが欲しかったっていうところに、
それに合ったサービスだったっていうのはあると思います。
「ソーシャルランチ」が新しい分野を切り拓いてくれて、
その亜流が出てきた中の一つかなと。

「CoffeeMeeting」を思いついたのは、
山本さん自身が、こういうのがあったらいいな、
って思ったのがきっかけなんですか?

いや、自分が使うとは思ってなかったですね(笑)。
たぶん、こういうのが欲しい人がいるだろう、
っていうところから始まってます。
だから、伴野を誘ったんです。
CoffeeMeetingを、
「どういう人に使ってほしいか」って考えた時、
思い浮かんだのが、彼だったんです。

メインのターゲット層に近い人が、
メンバーの中にいるっていうのは、いいですよね。
僕も、webサービスを作ってて思うんですけど、
いろんな人の意見を幅広く聞くよりも、
頻繁に使ってくれてる、コアユーザーの意見を集中的に聞く、
っていうほうが、的確な指摘が多いと思います。

そうですね。
あとは、ユーザーのフィードバックの中で、
多くの人が共通して言っている意見ていうのは、
やっぱり、耳を傾ける価値がありますね。

僕が思うのは、
物を作るっていうのは、それ自体楽しいことですけど、
さらに、それを他の人が使ってくれる楽しさっていうのも、
あるでしょう?

それは、すごくありますね。
今回でいうと、
「え?自分が作ったもので、本当に人が会ってるの!?」
っていう驚きがありますし。
最初は、「大丈夫か?」って思いましたけど。

ぶははははは!
「大丈夫か?」と。

知らない人と会うのコワくないのかな、と思ったんですけど、
みんなガンガン、ミーティングを登録してくれて。
それは、すごく嬉しかったですね。

それに加えて、自分もそこにユーザーとして
参加出来るっていう楽しさもあるし。

あと、面白いのは、
「こんな人です」っていうのを書いてくれる欄があるんですけど、
僕、今、あれを書いてほしいがためにやってるところありますね。
長い付き合いの人って、ある程度お互いのことをわかってるから、
本質的なことを言ってくれるんですけど、
初対面の人から、印象を聞く機会って普段ないから、
どう思われてるのか、わからないじゃないですか。

ああ!
たしかに。
もしかしたら自己評価と全然違うコメントかもしれないけれど、
貴重な意見ですよね。

それが面白かったりするんですね。
自分てこういう風に見えるのか、っていうのが、
結構新鮮なんですよ。

ゆるさが生み出すもの

山本さんのタグにも書いてありましたけど、
検索機能っていうのは、
これから強化しようと思ってる部分なんですか?


そう、検索についてはまだ開発途上で、
機能追加するべきところは残ってるんですけど、
でも、もしかしたら、その使いにくい部分が、
逆にうまく機能してるのかも、と思うこともあるんです。

お!?
それは、面白い話ですね。

なんか、完全に自由には検索が出来ないから、
底が見えないところがあるじゃないですか。

なるほど。
それはありますね。
きっちり「5307件がヒットしました」とか出ると、
なんか、興醒めする部分はあると思います。
業務システムじゃないから、
正確性が求められてるわけじゃないんですよね。

ちょっと偶然性がある感じが残ってて、
思わぬ人が見つかった、っていうほうが、
リアルに近いと思うんですよ。

その感覚をどこかに残しておかないと、
つまらなくなっちゃう気がするんです。

それは、よくわかります。
辞書で単語を調べる時のような感覚ですよね。
辞書をめくってる時に、本来の目的じゃなかった言葉も、
ついでに引っ掛かってきたりするような。

そうなんです。
あと、意識したのは、
細かい情報を出すことよりも、
人の顔をいっぱい出そうっていうことで。
1ページに120人表示されるようにしたんですよ。

ああ!
そうか、普通はページングするところを、
一つの画面にたくさん表示するようにしたと。

やっぱり、人の顔が並ぶってのは、
テキストが書いてあるだけの画面と比べて、
賑やかな感じがするし、暖かみがあるんですよ。

そこも、機能性よりも、
感覚的な部分を重視したんですね。

だから、
そんなに効率性を突き詰めなくてもいいと思ってるんです。
「いつかお茶したい」と思ってる人がいても、
すぐに会わなくても、本当にタイミングが合った時に
会えばいいじゃん、と。
そういうゆるさがあったほうが楽しいと思って。

そうですね。
業務用で使うシステムだったら、
効率性を突き詰めていいと思うんですけど、
楽しむためのものなんだから、それぞれが使い方を
工夫出来るだけの遊びの幅は残ってたほうが面白いですね。

twitterも、人のつぶやきって、
全部をきっちり見れてるわけじゃなくて、
タイミングによって、
流れていっちゃうつぶやきもあるじゃないですか。
そういうゆるさが、いいと思うんですよ。


それは、すごく共感します。
現実世界と同じような不確実なゆらぎがあるからこそ、
これだ!と思ったものを見つけたり、
出会ったときに余計に嬉しいってことはありますね。

そう、会いたい人と全員会えちゃっても、
面白くないと思いますからね。
会いたいと思っても、
やっぱり、一生会えない人ってのもいるんです。

それぐらいのほうが、楽しいですよ。
(2012年3月 銀座「SUZU CAFE」にて)

清水宣晶からの紹介】
山本さんと話しをして、一番強く印象に残ったのは、そのオープンな人柄だった。
自分自身の考えをわかりやすく伝えながら、僕が感じている課題を汲み取って、必要としているアイデアを惜しみなく与えてくれる。それは、僕が理想としているダイアログというものに近い、とても居心地のいい時間だった。

僕が「CoffeeMeeting」に興味を惹かれたのは、そのサービスの面白さからだけではなく、ユーザーからの意見を積極的に取り入れる姿勢で制作されていることが、とてもよく伝わってきたからだ。
山本さんは、「co-ba渋谷」のコワーキングスペースに通い、その場にいる、いろいろな人と関わったり、意見を聞いたりしながら、「CoffeeMeeting」の開発を進めてきた。

そのことが大いに影響していると思うのだけれど、山本さんの物事の考え方のベースには、人とのコラボレーションによって創発される力を信じる気持ちがある。
そして、その気持ちが、さらに新しい人の参加を促し、そこに正のフィードバックが連鎖的に働く、ポジティブな場が出来上がっているのだろうと思う。

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