今井健太郎

一級建築士事務所 今井健太郎建築設計事務所代表

1967  静岡生まれ
1992  武蔵野美術大学大学院造形研究科卒業
1992~ (株)三輪環境計画
1994~ (株)ブラックステューディオ設計事務所
1998~ 今井健太郎建築設計事務所設立

温泉、銭湯、温浴施設、住宅、商業施設に関わる、企画/建築設計/工事監理/インテリアデザイン/デザインコンサルティングをおこなっている。
http://www.ne.jp/asahi/space/88/

千代の湯にて

(清水宣晶:) 「千代の湯」って、こんなに、
学芸大学駅から近くにあるんですね。
ものすごいオシャレな入り口だなあ。


(今井健太郎:) 千駄木「ふくの湯」さんのオーナーさんも気に入ってくれて、
ふくの湯テイストの原型といえるかもしれません。
(※「千代の湯」「ふくの湯」は、今井さんが設計を手がけた銭湯)

なんか、雰囲気が似てますよね。
さあ、、じゃあ、
入りましょうか。

それ(ICレコーダー)、
水に濡れても大丈夫なの?

防水対応にするための
アタッチメントがあるんです。
(ジップロック)


(笑)あ、それがあるのか!

ああ、内装が、ものすごいキレイだ。

この、炭酸泉のスペースは、
壁で囲まれてるんですね。

銭湯って、
開放的な空間がウリっていうところがあるけれど、
逆に、こういう、壁に囲まれた内省的な
空間も新鮮だし、一部にあってもいいのかなと思って。

この炭酸泉は温度がぬるめ(37.6℃)でいいなあ。

温度が高くなると、血行が良くなりすぎちゃうから、
ちょっとぬるめにしてありますね。

湯船のお湯も41.6℃だし。
こういう、熱くない湯に
ゆっくり入るっていうのは、好きなんですよ。

大多数のお客さんのことを考えれば、
絶対そっちのほうがいいですよ。
昔の銭湯は、人がたくさんいたから、
ゆっくり入ってられたら困るっていうんで、
熱めにしてたけど、
今の若い人は、そんな熱い湯には入らないから。


この、富士山のペンキ絵は、
状態がすごくキレイですね。

ここで、前に「湯フェス」
(銭湯の活性化を目指して行われているイベントで、
様々な銭湯を会場にして、これまでに6回開催された)

をやったことがあって、あの富士山の絵は、
その時に、ペンキ絵師の中島盛夫さんという方が、
ライブペイントで描いたものです。(女湯は丸山清人さん)

みんなが見てる前で描いたんですね。
ライブペイントをやるには、
改装中の銭湯じゃないとですよね?

そう、だから、ライブペイントやるには、
自分の設計案件の銭湯じゃないと難しいんです。

しかも、ちょうど、イベントをやる日と、
改装工事のタイミングが合ってないとダメだし。

そう!
それが、毎回、超大変で。
イベントなんて、人を集めるためには、
2ヶ月前には発表しないとじゃないですか。
でも、工事って予定より遅れがちだし、
施主のほうは早く開業したいしで。

うわー、、

そういうドキドキの中での開催なんで、
一回やると、精根尽き果てますよ。

その調整は、
ほんと大変だと思いますよ。

でも、
せっかくやるからには、いいイベントにしたいし。
湯フェスは、自分の楽しみとしてやってます。

(風呂からあがり、着替えて外に出る)

すみません、ちょっと、
カウンターの写真を撮らせてもらってもいいですか。

(カウンターの女性:)あ、どうぞ!
こちらの銭湯は初めてですか?



初めて来ました。

この弁天様も、キレイでしょ。
一枚の板から彫ってるんですって。
みなさん、ビックリするんです。


一枚の板から彫ったものなんですか。
これは見事ですね。

この、弓と的の絵があるじゃないですか。

これは「弓射る(ゆみいる)」と「湯入る」をかけてて、
江戸時代は、こういう絵でお風呂屋さんを示してたんですよ。

あ、そうなんですか!
あ、そうなんですか!

ちなみに、
矢の先は、ハートになってます。

(笑)ホントだ!

なんか、この銭湯は、
とても内装が綺麗だって、
お客様たちも喜んでらっしゃいます。


ああ、それは良かったです。なによりですね。

(しばらく設計についての話しをする)
じゃあ、また来ます。

また来てください。
気をつけて。


今井さん、
この後、お茶を飲む時間はありますか?

あ、もちろん。
ウチのオフィスに行きませんか?

ホントですか!?
それはぜひ、お伺いしたいです。

銭湯の設計を手がけるまで

今井さんは、
大学の建築科じゃなくて、
美大の出身なんですね。


そう、もともとは、
インダストリアルデザイン科で、
インテリアの勉強をしてたんですけど、
大学の旅行に行った時、ガウディの建築を見て、
なんかとても圧倒されたんですよね。

そうなんですか!

僕、もともとは、建築って、
お金のこととか、法律のこととか、
いろいろ面倒そうだったから、
一番遠い世界かもと思っていたんですよ。

純粋なデザイン性とは別の要素が、
建築だといろいろ入り込んできますよね。

でも、ガウディの建築を見たら、
そういう概念がスッ飛んでるわけですよ。
市民が日常の中にアートを見ていて、そのアートの中に住んでたり。
何か理屈ではない、造り手と使う側の存在感というか
必然性を感じてこれはスゴイな、と。
グエル公園とか教会とか集合住宅とか、
日常的に使われてる感じが、
すごい良かったんですよね。
本や美術館の外にある公衆の芸術としての空間。
今考えると、それが意外と、
銭湯につながってる気がします。

日常的にみんなに使われてるっていうのは、
かなり近いですよね。

「テルマエ・ロマエ」ってマンガあるでしょう。
あの主人公のルシウスが設計した浴場を、
学生の時、見に行ったことがあるんですよ。
もちろん当時、将来銭湯を自分が手がけるなんて思っていない若い頃。
ハドリアヌス帝が作らせた、
ものすごくでっかい風呂を見た時などは、
それが実際に使われてた当時を思い起こして、
かなり妄想を膨らませたりしていました。
そんな体験も、どこかで影響受けてると思います。

マンガとは逆に、
現代からローマ時代に遡って、
風呂の建築に影響を受けてる、っていう。

そう、だから、いわば、
「逆テルマエ・ロマエ」なんですよ。
そういう、学生時代の経験があって、
本格的に建築をやりたくなって、
就職する時、設計事務所を選んだんです。


その後に、今井さんが自分で
設計事務所を立ち上げたっていうのは、
何か、きっかけがあったんですか?

当時、好きな建築家がいて、
その人の事務所に、
「働かせてください」って行ったんですよ。

おお!
飛び込みで。

そうしたら、
「ウチに来なくても、君一人で出来るんじゃない?」って言われて。
今思えばたぶん、その時すごい生意気で、
「僕なんでも出来ますから」みたいな感じで
アピールしたからだと思うんだけど。

うんうん。

それで、なんか、
「じゃあ、やってやるよ!」
って感じになっちゃって。

ぶははははは!
そういう流れになっちゃったんですね。

その時点で、全然経験も知識も不足してるのに。
住んでるところも風呂なしアパートだし。

でも、その勢いがなかったら、
独立するのはもっと先になってたでしょうね。

うん、まあ、
結果論的には良かったですよ。
冷静に考えたら、絶対、
独立出来る状態じゃなかったから。

銭湯の設計を手がけるようになったのは、
どういうきっかけからでしたか?

京都から友達が遊びに来た時に、
一緒に、北千住の大黒湯っていうところに行ったんですよ。
そこに、仙人みたいなおじさんがいて。

仙人みたいなおじさん?

「銭湯の主」みたいな感じで、
洗い場で、その人が隣りに座ったんだけど、
持ってきてるのが、スーパーのカゴだったわけ。

あの、、カートに載せる、
でっかいカゴ?

そう、僕も当時風呂無しで毎日銭湯に通っていたわけで、
色んな人を見てるから、多少のことじゃ驚かないんだけど、
さすがにビックリして、その人を見つめてたら、
目が合っちゃったんですよ。
そしたら、
「いいだろう?この風呂はいいだろう?」
って言って、僕の頬を叩いてきたの。
いきなりのフィジカルコミュニケーション!
それで「うわー・・」って思って、その時、
「あ、そうか!
銭湯の設計をやればいいんじゃん」って閃いたんだね。

・・・え!?(笑)
それで閃いたんですか?

あれ?
わかんなかった?
そっか、人から見たら、
なんで閃いたか、全然わからないよね。

いや、でも、
その瞬間になにかが降りてきたわけですね。

そうそう。
そのおじさんに会わなければ、
閃かなかったかもしれないんですよ。
それから、じゃあ、
銭湯っていうのを自分のテーマにしよう、と思って。
でも、まだ、銭湯の設計の実績どころか、
事務所としての実績もほとんど無かった時だったから。
勝手に自分で、こういう、
銭湯のフィールドリサーチをしてたんですよ。

うわー!

・・これは、ものすごい量の
リサーチですね!

誰も自分のことを知らないところに乗り込んでいって、
仕事をさせてくれって言うわけだから、
やっぱり、それなりに勉強しているっていうところを
見せないとっていうのはありましたね。

ちゃんとフォーマットを決めて、
細かいところまでチェックしてたんですね。

住宅の設計だったら、
世の中に設計の参考書がいくらでもあるわけじゃないですか。
美術館とか、温泉とかも設計参考の本が沢山あるけれど、
銭湯の設計参考資料なんか一冊もないわけです。

あ、そうなんですか!?

エッセイやレトロ賛歌としての写真集なんかは意外とあるんですけど、
設計の参考になる、間取りや寸法関係等記した専門書は、
一っ冊もないですよ。
逆に言うと、そのおかげで、この資料が
後から自分の強みにもなったんですけど。

ニッチなところを狙ったんですね。

まあ、最初はそんなことも考えずに、
「銭湯面白いよ」って、
楽しんでやってただけでした。

そうか、べつに、
事業戦略として選んだっていうわけじゃなくて、、

事業戦略ゼロ(笑)。
でも、自分の中のイメージだけは満載、
みたいな状況でしたね。

あ、これが、
「夢銭湯」のデザインですね。

(今井さんは東京浴場組合のフリーペーパー「1010」の中で、
「夢銭湯」というコラムを連載していた)


そうそう。
こういうのと、
営業案内のパンフレットみたいなのを作って、
銭湯に一軒一軒、自転車で配って回ってたんですよ。
そしたら、あるお風呂屋さんのご主人が
「面白い!」と言ってくれて、
「1010」(東京浴場組合のフリーペーパー)の
人を紹介してくれて、連載させてもらえることになったんです。
で、それを読んだ人の中に、
「じゃあ、銭湯の設計をやってくれ」と言ってくれた人が出てきて、
それが、銭湯を手がけた、第一歩です。
足立区の「大平湯」さんのオーナーさんですが、
銭湯業界の中での一本目はとても重要ですから、
ホントに感謝しています。
今思えば、よくこの閉じた業界の中で、
「新参者」に仕事をさせてくれたなと思います。

気を整える空間

銭湯って、日常的に行く行かないは別として、
好きな人は多いと思うんですよ。
あの惹きつけ力は、何なんでしょうね。

大きな風呂、高い天井、健康、コミュニケーション、癒し。。。
銭湯の魅力っていろいろあるんですけど、
僕はね、意外と利用空間の
全体像が見えないっていうところも大きいんじゃないかと思っていて。

ああ、なるほど!
少なくとも、建物の半分はわからないですね。

それもあるし、
入口から中が見えないじゃないですか。
それぞれの空間にシークエンスがあって、
壁で仕切られてる。


うんうん。
たしかに、アトラクション的な、
この暖簾の向こうに何があるんだろう、
っていうワクワク感はありますね。

それで、潜在的に、
次の空間を妄想したりっていうのが
あるんじゃないかと思うんですよ。
ていうか、僕がそうなんですけど。

今井さんが設計した銭湯を見ると、
伝統的な和の雰囲気がベースなんですけど、
若い人に好まれそうなデザインだなと思いました。

今、とにかく銭湯から若い人が減っちゃってるじゃないですか。
銭湯が近所にあるにもかかわらず来てないのって、
圧倒的に、若い層なんです。
その層の人たちが魅力を感じるようなデザイン、
っていうのは考えてますね。
でも、銭湯独特のものはエッセンスとして引き継ぎたいから、
ペンキ絵やタイル絵も復活させたし、古いロッカーの鍵を再利用したり。
そういうものと新しいもののミックスは、常に考えてます。
他には、例えば。。。。

千代の湯のフロントにあった飾りは「懸魚」といって、
もともと千代の湯が木造時代に屋根の妻下に施されていた彫刻なんです。
こういう、歴史的価値があるのに埋もれていたものなんかも、
オーナーさんと対話しながら引っ張りだして来たりしています。

そう、銭湯って、
どこの銭湯も、高齢の人が多い印象なんですけど、
この前「ふくの湯」に行った時は、
若い人もたくさん来ていて、
それは、すごく驚きました。

そうなんですよ。
改善の努力をすれば、人は来るんです。

僕は、今はもう、
どこの家にも内風呂があるわけだから、
銭湯に来る人を増やすのって、
難しいんじゃないかと思ってたんですよ。
でも、人が増えるってことも、あるんですね。

潜在的な客層は、まだまだいっぱいいて、
ちゃんと、今に合った形でリニューアルをすれば、
絶対に、人は増えると思います。

今井さんてたぶん、銭湯入った時、
普通のお客さんとは見るところが違うでしょうね。

だいぶ違うかもしれませんね。
でもあえて、お客さん目線でしか見ない場合もありますよ。
僕は実は、銭湯って、
実際の、客の入りへの影響としては、
フロントの接客が一番大事だと思ってるんです。
その次が、清潔感。

それは、すごく大事ですよね。
前に中村くん(中村洸祐)も同じことを言ってました。

で、その次に空間設計、ぐらいだと思うんですよね。
僕が設計を考える時は、
「気を整える」っていうような感覚は、
すごくあるんですよ。

「気」っていうのは、
機能性とはまた別の部分なんですか?

うーん、そこは、
なかなか言語化しにくい部分なんですよ。
三次元的に良い空間っていうのと、
気功学的に良い空間っていうのは、
似ているんですけど、ちょっと違うと思っていて。
「なんか気持ちいいんだよな」っていう感覚は、
常に追求してますね。
なかなか、うまくいえないんですけど。

いや、
そういう感覚があるのはわかります。

気を整えるっていうのは、単純にレイアウトもそうですが、
それ以上の何かを形成していく感覚があります。
掃除も、気を整えるということに、
すごく影響してると思うんですよ。

銭湯が、気を整えられる場になってるか
どうかっていうのは、大事ですよね。
みんな、疲れを癒しに来てるわけですから。

そう、そこで、やっぱり、
フロントの人の対応も重要になってくるんですよ。
だから、好きな銭湯を尋ねられた時、
やっぱり、僕は、お客さん目線としては、
番台でいい挨拶とか、ちょっとした会話が出来るところは、
すごくいいと思いますね。そういうところはやっぱり、
きちんと清潔感を保っている銭湯だったりする。

さっき行った、
「千代の湯」の対応も、すごく良かったですよね。

そう、あういう接客は本当にありがたいです。
スタッフの雰囲気が悪いと、いくら設計でがんばったって、
「ここ嫌い」というお客さんは出て来てしまいますので。
逆に言えば、大規模な改装をやらなくても、
営業努力で銭湯のお客さんが増えるっていう部分は、
まだまだあると思います。
先ほども言いましたが、清掃とフロント対応の改善、
ちょっとしたサービス改善だけでも
お客さんは増えるんじゃないかと思っています。
古い銭湯なのに女将さんの切り盛りがよくて、
けっこうお客さんが入っている銭湯がたまにありますよね。
そういうのを見ると銭湯の場合、お客さんを増やしたいという時、
必ずしも新しくするばかりが能じゃないと思います。
ただ一方で、「人の深層心理に働く空間の作用」
というのは絶対ありますから、改修を依頼された場合は、
そういったところに意識をおいて設計しています。
これが、「気を整える」という部分につながるんです。
(2012年2月 学芸大学「千代の湯」にて)


清水宣晶からの紹介】
今井さんと初めて会ったのは、彼が改築を手がけた千駄木の「ふくの湯」の風呂場でだった。
日本の伝統的な様式を残しながら、モダンな内装によって磨き上げられた「ふくの湯」の中は、子供からお年寄りまで、様々な年代の人々がひしめき、一度に座りきれないほどになっていた。

最近になって、銭湯という場の魅力が再認識されて、メディアでも取り上げられる機会が徐々に多くなってきている。その下地には、間違いなく、ペンキ絵のライブペインティングや「湯フェス」のようなイベントを通じて銭湯文化を蘇らせるという、今井さんが地道に続けてきた活動の影響があると思う。

今井さんが手がけた建築には、細かい部分にまでひとつひとつ思いが込められていて、その説明を聞くと、目には見えない部分にも、様々な物語を含んでいることがよくわかる。
「そこに良い気が流れること」を何よりも大事にして設計された空間は、一日の疲れを洗い流す、銭湯という場にふさわしい活気に満ちていた。

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