菅野尚子

母親の影響で幼い頃から料理とお菓子作りに興味を持つ。

食品業界で飲食店向けのメニューブック制作企画、コンビニエンスストア惣菜、ファーストフードメニュー開発、商品企画を経て渡仏。
フランス人家庭に滞在しながら家庭料理、郷土料理を学び、リッツエスコフィエ、ル・コルドンブルーパリ校で料理、菓子を学ぶ。

現在は、子育てをしながら、雑誌、書籍、WEB、カタログのフードスタイリングやレシピ開発に携わっている。
(2010年7月 自由が丘「la petit maison」にて)

料理に向いた環境

(清水宣晶:) 前に、かんちゃんが言ってた、
「料理には人を幸せにする力がある」って言葉は、
オレ、すごく印象に残ってるんだよ。
かんちゃんが料理ってのものに興味を持ったのはどこからだった?

(菅野尚子:) すべては、子供の頃にあったと思うんだよね。
母が、すっごくお菓子とかお料理とか大好きだったの。
だから、何かをやろうと思った時、全部道具が揃ってたわけよ。

なるほどなあ!
育った環境の影響は大きいな。

たとえば、お菓子づくりをやろうと思ったって、
本当にやろうと思ったら、
泡立て器買わなきゃ、とかなってくるでしょ。

そういうの自分で買うのは、
子供にはハードル高いよね。

あと、母親っていう先生が近くにいるじゃない?
わざわざ教えてくれるわけじゃないんだけど、
見てれば、自然に学べる機会がたくさんあったから。
だけど、難しいところはやらせてくれなかったの。
たとえば、メレンゲを泡立てて、その中に生地を練りこむ、みたいなのは、やり直しがきかないから一回勝負なのよ。
そういうのは、いっくらやりたいって言っても、やらせてもらえなかったのね。

(笑)そう言われると、
余計やりたくなるにきまってるよな。

そう!
そういう思いが重なって、
自分でやりたい、とか、楽しそう、っていう
気持ちが膨らんでいったんだろうね。
私、昔っから、正月のおせちを詰めるのが大好きで。

まさに、
台所最大のイベントだね。

だから、12月31日が一年で一番好きだった。
そこで、梅の飾り切りだとか、並べ方を覚えたり。
ゆずの中身をくりぬいた「柚子釜」に、なますを入れるのを見て、
全然そんな技を知らないから、「斬新だわ!」って驚いたり。

それはほんと、
個人指導の先生がついてる感じだな。

とはいっても、押しつけがましい感じじゃなくて、
色々言ってくるわけじゃなく、やっぱり、背中で?

ぶははははは!
背中で語るのって、普通、父親なんだけど。
ムリにやらされるんじゃなくて、見てて楽しそう、
ってところから入るのって、一番いいよね。

そうそう。
あと、ウチ、四人兄弟だったでしょ。
小さい頃、みんなでお店屋さんごっこしてたの。
おもちゃのお金を2000円ずつ持って、お店を開いて、
誰が一番お金が貯まるかってゲームなんだけど。

うんうん。

それをやると、毎回私が勝ってて、
いっつも、食べ物屋さんをやってたのね。

ほんとの食べ物?

そう、台所に行って、
すごい小さいホットケーキとかフレンチトーストをちまちま作って、
それを並べておくわけ。
みんなそういうの好きだから、じゃんじゃん売れるの。

それは、やってて楽しいね。
しかも儲かるし。

だから、今でも、
大きなチキンみたいなのをドーンと焼くよりも、
小さいものをこまごまと作るほうが好き。

妹や弟は、何屋をやってたの?

輪投げとか。
それだと、景品も出さなきゃいけないじゃない?
あんまり魅力的な景品がないから、
すぐに誰もやらなくなっちゃって。

そう考えると、
やっぱり、食べ物屋さんてのは、カタい商売だな。

作る人の性格

同じ環境で育って、他の兄弟は、
かんちゃんみたいに、料理には興味持たなかったの?

弟は、料理の専門学校に行って、
最初はシェフの仕事をしてたね。

あ、やっぱりその道に進んだのか。
妹二人は?

妹は、何かあると「趣味・料理」って書いてるんだけど。
私、「これ書いていいのかな?」っていっつも言ってる。

でも、そう書くってことは、結構やるんだね。

上の妹は、パン作るのとかはすごい上手。
私と性格が違って、レシピ通りにきっちり計って、
学校の先生に言われた言葉も覚えてて、その通りに作るのね。
で、実際、出来上がりも完璧なの。
ロールパンとか、巻き方とか形とかフワフワさとか、失敗ないよね。
でも、頻繁にはやらない。

やるときゃすごい、と。

下の妹は、三女だけあって、
何やっても器用なの。
だから、料理も、パパパって作れる。

ああ、やっぱり料理って、
作る人の性格がすごく出るよね。

私は、適当に右脳で作る感じだから、
失敗も多い。

(笑)そうか。

レシピ通りにやればいいのに、
その通りにやらなかったりするの。
でも、今は、仕事でレシピを考える側になってるから、
すっごいきっちりやるようになったよね。

そうだよな。
適当に目分量でやってたら、レシピに出来ないもんね。

そう、それを見て、
誰もが、同じものを作れなきゃいけないじゃない?
だから、分量とか作り方とか、すごく気をつかう。

普段、自分が作り慣れてるものを作る時ってのは、
何が何グラムで、なんてあんまり気にしないからなあ。

ウチのお母さんもそのタイプで、
「これすごい美味しい!どうやって作ったの?」って聞いても、
「これとこれを、ちょちょいのちょい、よ」しか言わない。

右脳派だなあ。

だから、作る時に、
「待って、私も見る!」って言って、一緒に見ないとわかんない。
今まで、色んな料理を色んな学校で学んできたけど、
やっぱり、私の中で基本にあるのは、母親の味つけや盛りつけだね。

盛りつけも上手だったんだな。
なんでもこなすんだね。

園芸も好きな人だから、ハーブも全部庭で作ってたし、
クリスマスになると、庭のモミの木を鉢にうつして部屋に置いて、
それに、兄弟みんなでクッキーにアイシングで絵を描いて飾って。

賑やかでクリスマスっぽくていい!

私が、料理っていうものから幸せとか楽しさをイメージするのは、
そういうところから来てるんだと思う。

異文化交流の楽しさ

かんちゃんが、
特に好きな料理ってどういうの?

私、おばあちゃん特製の漬物とか、
郷土料理とか、そういうのに惹かれる。

その場所でしか食べられないようなもの、
ってことかな?

そう。
フランスに行ったのも、パリの料理が知りたいっていうよりも、
地方の料理が知りたかった。
そこの地方に根づいている食材を、そこの人たちは、
どういう風に食べてるのかってのを知りたいんだよね。

リンゴとかチーズとか、
その場所の名産を使った料理か。

そういう料理を知るのがすごく楽しくて。
日本ではお目にかかれないようなものがあるじゃない?

そうだよな。
そういう料理は、その土地に行かないと、
食べられないね。

もちろん、日本の郷土料理もすごく惹かれるんだけど、
日本の食べ物だと、だいたい食材が想像つくでしょ?
でも、フランスの郷土料理になると、まったくの未知なわけ。

日本にない食材もたくさんあるし。

そうなの。
初めてマルシェ(市場)に行った時に、
知らない野菜とかをたくさん見るでしょ。
これ、どうやって食べるんだろう?
っていうのを、知りたかったんだよね。

外国の市場って、
どこの国でも、すごく楽しいよね。

楽しい!
スーパーと市場に行くのが、一番好き。

フランスに住んでた時は、
その時初めて知ったものって多かった?

多かったよ。
一番面白かったのは、パリのホームステイ先で。
おじいちゃんと、4人の女の子で暮らしてたんだけど。

なに、そのシチュエーション(笑)。

子供がみんな大きくなって出ていって、
部屋が空いちゃってるから、そこに、
アジア系の女の子ばっかりを住まわせてるわけよ。

アジア系が好みのおじいちゃんなのか。

そこで暮らしてた時は本当に楽しくて、
中国人の子が、ゆで卵作る時、ウーロン茶で何時間も煮てるの見てびっくりしたり。
おじいちゃんが狩りが趣味で、毎週、色んなものを捕ってくるの。
キジとかウサギとかイノシシとか。

スゴイな!
本物のジビエだね。

で、「ナオコ、料理して」って言われるんだけど、
冷蔵庫開けると、毛がフサフサついたキジと野ウサギが入ってて。

うわーーー

さすがに、やり方がわからないじゃない?
「これ、どうやるの?」って聞いたら、
おじいちゃんが、新聞紙ひいて、テレビ見ながら鳥の羽根を抜き始めて。
昔はこうやってたんだなあ、って思った。

それは、日本じゃ経験出来ないことだな。

ないでしょ?
で、パリで料理人やってる友達を呼んで、さばき方を見せてもらって。
そしたら、中国人の女の子が、
「私これもらっていい?」ってウサギの毛皮を持っていって、
ダンボールに画鋲で刺して干してた。

カバンでも作るのかな。
それ、すごい異文化交流だね。

異文化交流だよー。
私、そういうのに、ワクワクするんだと思う。

かんちゃんて、不思議なぐらい適応力あるんだよなあ。

しばらく異文化に接してないから、
今また、それを求めてる。
日本の料理を学びたいっていう外国人に教えたりとか。

食べ物ってのは、言葉が通じなくっても、
美味しさが、国境を超えてそのまま通じるってのがいいね。

そうなんだよ、あっきー!
あと、見た目もそう。
フランスの料理の写真て、すっごい素敵なの。
向こうのフードスタイリストの仕事もしてみたいな。

そういうのって、ずっと続けられそうな仕事だし、
かんちゃんにはぴったりな気がするよ。
(2010年7月 自由が丘「la petit maison」にて)

清水宣晶からの紹介】
僕がフランス語に興味を持ったのも、料理の楽しさを知ったのも、元をたどれば、かんちゃんのおかげだ。かんちゃんが話す言葉と、作る食事とを、とても美しいと思ったのが、その世界に近づきたいと思った、最初のきっかけだった。

かんちゃんは、大雑把なところはあるけれど、おおらかなO型の、活発な明るさを持った人だ。その場をパッと彩るような雰囲気があり、どんな環境にもすぐに馴染んで、それを前向きに楽しんでしまう。

その時にしか出来ないことにいつも全力を傾けて、母親となった今もまた、子育てをしながら主婦向けのレシピ作りに動きまわって、じっとしているということがない。
この先も、かんちゃんは、いつになっても変わることのない行動力で、その時々の生活をデコレーションして味わい、周りの人たちにふるまうのだろうと思う。

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