辰野しずか

1983年生まれ。ロンドンでプロダクトと家具デザインを学んだ後デザイン事務所を経て、2011年デザイン事務所「+st」設立。家具やプロダクトデザインを中心に、グラフィックデザイン、空間デザインを手掛ける。現在は「日本を元気に出来るものづくり」を目標に東京をベースに活動中。茶道中級。食べることとアート全般大好き。

http://www.shizukatatsuno.com/

理想のオムレツ

(清水宣晶:) しずかちゃんは、
もし、デザインの仕事をやってなかったとしたら、
何をやってたと思う?

(辰野しずか:) 料理人です。

料理人!?

超食いしん坊なんですよ。
料理の世界は、やっぱりいまだに、
いいなって思うんですよね。
料理って五感を刺激するじゃないですか。
パフォーマンス的な部分もあるし、
すごく魅力的だなあって。

そうだよね。

デザイナーなんかより、料理人のほうがずっとスゴい、
って、尊敬してるんですけど、
生きた鳥とか、私はたぶんさばけない、
っていうのがあって。

あー、、そうか。
鳥をさばかない料理人てわけにはいかないか。

やっぱり、それが出来なかったら、
料理人にはなれないなって思って。
やるんだったら、少なくとも、血を抜くぐらいは出来ないと。

パティシエってのはどう?

パティシエも芸術性があっていいんですけど、
甘いものよりは、普通の食べ物のほうがいいですね。

自分でよく作るメニューってある?

毎週のようにオムレツを作ります。

オムレツが好きなの!?
何も入れない、プレーンのやつ?

そう、中に何も入れないのが一番好きで。
でも、まだあんまり理想に近づけてないんですよ。

なにか、理想のオムレツのイメージがあるの?

赤坂の「オー・バカナル(AUX BACCHANALES)」っていう店のオムレツが、
今の私の目標なんです。

「オー・バカナル」のオムレツって、そんなに凄いの?

私が「理想のオムレツが見つからない」って言ってた時に、
知り合いに連れてってもらったのが、その店で。
あ、これはたしかに理想のオムレツだ、って。

てことは、その前は、
オムレツは好きだったけど、
理想のオムレツっていうのは見つかってなかったんだ?

そう、フランスに行った時も、
本場だから見つかるかな、って期待してたんですけど、
理想のものは見つからなくて。
私が頭の中で空想してたのは、「ぼくは王さま」っていう本に出てくるオムレツだったんです。


読んだことないけど、絵本だよね。

その王様が卵好きなんですよ。
だから卵料理がいっぱい出てくるんですけど、
そのオムレツが、もう、超おいしそうで。

あるなあ、そういうの。
「ちびくろサンボ」の、
虎がぐるぐる回って出来たバターで作った
ホットケーキが妙においしそうだったりとか。

それのイメージがずーっと頭の中にあって、
オー・バカナルで食べた時、ぴったり同じだったんですよね。
同じものを家で作ろうとしてるんですけど、
なかなかうまく出来なくて。

普通に卵を巻いて、
ケチャップをかけただけのものなの?

ケチャップなんてかかってなくて、
もう完全に、プレーンです。

そこまでシンプルで旨く作るって、かなり高度な技術だね。

そうなんです。
簡単そうにみえて、自分で作ろうとすると、
すごく難しいんですよ。

料理に興味を持ったのって、小さい頃に、
ゆかりさん(しずかちゃんのお母さん)が
作った料理の影響もあるのかな?

それもあると思います。
うちの母が、料理に関してかなりクリエイティブだったので、
昔は、塩釜の魚とかが出てきたりして。

自前で塩釜焼きの料理をする家は、
なかなかないだろうなあ。

一番衝撃だったのは、
ウサギのチョコレートソースがけが、
特別でも何でもない、普通の日に出てきたことがあったんですよ。

完全に、家庭料理の範囲を超えてるね。

あれはインパクトが強すぎて、
兄弟みんな、いまだに忘れられないんですよ。

小さい時の記憶って大きいよね。
味覚も敏感だから、与える影響も強いし。

そういう意味でも、
やっぱり料理って素晴らしいなあって思うんですよね。
将来、もしデザインで打ちのめされたら、
料理人に転向するかもしれないです。

美しさの基準

しずかちゃんは、
プロダクトデザインっていうものの、
どの部分に面白さを感じてるんだろう?

自分の作ったものによって、変わる人がいるっていうところとか、
人の生活の中に入れるっていうところ、なんだと思います。

そうすると、
たとえば絵みたいなものよりも、
実際に使われる、実用品を作るほうが好きなのかな。

そう、絵は趣味で描くのは好きですが、
グラフィックみたいな、実用的に機能するもののほうが仕事としては好きですね。
機能が入ってないと、依頼した人のニーズに応えるのが難しいんですよ。

それはわかるなあ。
「雰囲気」みたいな、抽象的な話しだと要望に応えにくいけど、
機能があれば、「ここは外せない」っていう軸が出来るよね。

そうなんです。
その軸があれば、たとえ自分の好みじゃないものを作る場合でも、
ゴールがあるっていうか。
「好きか嫌いか」じゃなくて、
「いいかわるいか」で判断出来る、っていう。

好き嫌いを基準にすると、ゴールが曖昧になっちゃうものね。
僕は、クレーン車とか牽引車みたいな特殊車両が好きでさ。
機能に特化してる物を見ると、美しいなあって思う。

「働くクルマ」ですね。
私も、そういう機能美は好きで、
留学する前なんかは、機能美がある物しか受けつけなかったんです。

うんうん。

余計な装飾とか要らない、って考えてて、
日本のプロダクトデザインでも、
そういう風潮があると思うんですけど、
イギリスに行くと、価値がそれだけじゃなかったんですよね。

イギリスはどういう風なの?

機能美だけを追求したものを作ると、
「つまらん」て言われちゃうんですよ。

しずかちゃんがイギリスで作ったソファーなんかは、
どういうコンセプトだった?

あのソファーを作る前に、いくつか案があったんですよ。
大元のコンセプトは、私の中では気に入ってた、
シンプルに機能美を追求したものだったんですけど、
その案を先生に見せたら、「いやいやいや・・」って。

(笑)あ、そうなっちゃうんだ!?

3人先生がいて、
全員が、「面白くないね」って。
最初は、美しくスタッキング出来るスツールを考えてたんですよ。

なるほど。
スタッキング出来る椅子って、好きだわー。
収納が楽だし、あれは機能美の領域だよね。

そうなんですよね。
ヨーロッパの中でも、いろいろ基準が違って、
ドイツはやっぱり機能美重視なんですけど、
イタリアとかオランダなんかは、プラスアルファが入った
イノベーティブなものを評価する傾向があって、
それで随分、いろいろな価値観があるって知りました。

あの、展示会に出したソファーなんかは、
日本と海外では、評価が違った?


そう、やっぱり、
日本よりも海外のほうがウケが良かったと思います。
日本では、挑戦的な変わったものよりは、
今まであったものを使いやすくした、
っていうものの方が評価される傾向があるので。

メイドインジャパンのものって、そんな感じするよね。
便利だったり、実用性があったり。

テクノロジーで新しいものは歓迎されるんですけど、
デザインで奇抜なものは、あんまり好かれないっていう気がします。

茶道とデザイン

しずかちゃん、お茶もやってるんだよね。
もう、結構長く続けてるの?

留学前からずっとやってるんですけど、
花嫁修業のためとか、所作を身につけるためじゃなくて、
茶道の真髄とか、日本文化の真髄を知りたくて。

それは、どういうきっかけで始めたの?

もともとは、高校生の時に、
美術の先生がオススメしてくれた本があって、
それが「陰影礼讃」と「茶の本」だったんですよ。
読んでみたら、それはもう心を打たれて。


高校生にしたら、かなり渋い趣味だね。

その時から、いつかお茶をやりたいなって思って、
留学前に始めたんですけど、
千利休が考えた「美」って、プロダクトデザインの思想にすごくつながる気がするんですよね。

それ、面白いなあ!

道具とか所作の無駄の無さとか、
すべてが美につながっている、っていう。

今回一緒に作ってる、しずかちゃんのホームページも、
茶道に通じるものを感じるよ。

「間」とかですか?

「間」もそうだし、シンプルさとか。
その美意識は、似たものがあると思う。

でも、茶の考えが作品に直接活きてるかっていうと、
あんまりそういう意識はなくて。
茶の考えにのっとって作る、とかは止めようと思ってます。

「茶の考えにのっとって作る」ってのはスゴいね。

それは、出来るんじゃないかとは思うんですけど、
でも、そこは切り離して考えたいんです。

なるほど。
意識的につなげようとするんじゃなくて、
もっと無意識の部分に染みこませたいってことなのかな。

そう、「茶をやってる自分」がまず在って、
そこから自然に出来るものを作りたいっていう気持ちがあるんでしょうね。
(2010年12月 自由が丘「PLATINO」にて)


【ヒトゴトへの一言(辰野しずか)】
こんなにたくさんの事を話したインタビューは初めてで、面白かったです。デザイン以外の話もできたので、食いしん坊でのんきな部分も伝えられてよかったです。話すことで自分の事を再確認できて、とても有り難い機会でした。

清水宣晶からの紹介】
柔らかな物腰と清楚な雰囲気に包まれているために、なかなか気づきにいことだけれども、しずかちゃんはアートというものに関して並外れた熱意と、明確な思想を持っている。
早い時期に日本を飛び出して、単身で世界のデザインを体感した彼女の話しからは、マイノリティーとなることを恐れず、自分の感覚を信じる強い意志が備わっていることを感じた。

以前に「100% Design」の展示会で見た彼女のソファーは、シンプルな形の中に機能性とデザイン性とが両立していて、そのブースはひときわ注目を集めていた。
「Shizuka Tatsuno」ブランドからは、人々の生活にしっくりと馴染むプロダクトが、この先たくさん生み出されていくだろうと思う。

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