工藤妙子

横のものを縦にする仕事をしております たまにその逆のこともしてみたり

現在 趣味が昂じて ワインバーの厨房ステーキ店のホールにいます →飲食店のバイトをかけもちしながら給仕の修行中 →近々 厨房に戻るかも?

抽象と具象 その両方に心奪われる 日々


好きなもの:文学 文鳥 文楽
苦手なもの:無理解 無神経
欲しいもの:ヤギ
行きたい国:ギリシャ

フランス語のプロになろうとした経緯

(清水宣晶:) まずはやっぱり、
妙(たえ)がフランス語を専門にするようになった
経緯から聞こうかな。

(工藤妙子:) そう、さっき清水くんに聞かれた後、
ずっと考えてたんだけど。

うんうん。

フランス語ができるようになりたい、
って思うようになったきっかけは、
小林秀雄の影響が大きかったの。

おお!?
それは面白いね。
どういう関係があるの?

高校生の時、彼の本を読んでいてね、
「これは、ちょっとやそっと勉強したくらいじゃ、
この人の話はわからないぞ」って思ったのね。
で、彼にまつわる伝説はいろいろあるんだけど、
一つにはまず、小林秀雄は、
フランス語が物凄くできたらしい、と。

帝大の仏文科だものね。

なかでも私が感銘をうけた逸話は、
小林秀雄があまりにもフランス語の授業に出ないから、
先生が、「きみ、試験ぐらいは受けに来なさい」って言ったんだって。
で、試験をしたらあまりにも完璧だから、
「きみはもう授業には出席しなくてもいい」って言われた、
っていう話があって。

武勇伝だな、それ。

だから、「きみは授業に来る必要がない」って言われるくらい、
フランス語ができないとダメだ、って思ったのね。
小林秀雄ファンの私としては。

極端だなあ!

けっきょく言われたことないけどね(笑)
井上陽水の昔のLPに載ってた、
陽水の年表っていうのがあってね。
ビートルズに熱中しすぎて大学受験に不合格、
云々っていう記載があるんだけど、
私の年表を書くとしたら、
高校から大学にかけてのあたりで、
「小林秀雄に憧れる」って項目が入るね。

評論が好きだったの?

最初は中原中也から入って、
そこからあの二人の影響を受けたんだね。
いま読み返すと恥ずかしい、
自分で書いた中原中也風の詩集とかもあるよ。

ぶははははは!
それは恥ずかしいだろうなあ。

で、それを好きな人にあげたりしてた。
中学生の頃には、小説家になるって決めてたのね。
でも、うちの父親はそんな簡単に、
「じゃあ、なりなさい」って言うような人じゃなかったの。
「小娘の書いたものを誰が読むか、お前は生意気だ」って。

「妙子のくせに!」って。

(笑)まあ、そんな感じ。
それが悔しくて、なんか小難しいことを言えば、
父親に言い負かされることはないだろうと思って、
理論武装するためにも、小林秀雄を読んでた。

その当時から、すでに反骨精神があったんだな。

まあ、そうは言いつつ、
やっぱり、そこらへんのパープーのお姉ちゃんの本なんか、
私だって読みたいと思わないよなあとは思ってた。
だから、ちゃんと考える材料になるための本に興味を持ってたんだね。

古典と小説

オレが、妙のことを教養がある人だって思うのは、
何といっても、古典の知識があるってところだな。

古いものが好きなんだよね。

そうだよね。

私、作家になりたいとかいう以前に、
紫式部みたいになりたい、って思ってて。

お?
それ、いったいどこに憧れるんだ・・?

小学校の頃、担任の先生に、
「お前は平安時代に生まれたらよかったのに」って言われて。

それは…ビジュアル的なことで?

そうだね(笑)。
あるとき、学校から帰って、お母さんに、
「紫式部は美人だったのか?」って聞いたのね。
そしたら、「小説とか書くような人は、身なりにこだわらないから、
そんなにキレイな人じゃなかったんじゃないの」って。
実際は、きれいな人だったらしいという説があるってことを、
あとで知ったんだけどね。
小さい頃から、不器量だという自負(笑)が、
人一倍強かったから、そういうところで、
自分には適性があるって思い込んだんじゃないかな、子ども心に。

すごい人をモデルケースにしちゃったなあ。

松井になりたいとか、
イチローになりたいみたいなもんだよね。

いや…そういう王道の夢と違うんじゃないんじゃないか?
将来の夢「紫式部」だったって人は、初めて聞いたよ。

そんなわけで、源氏物語に早くから憧れてたの。
で、中学校の古文の授業でも出てくるんだけど、ぬるいのよ。

こんなペースじゃ、
いつまで経っても原文読めねえよ、と。

そうそう、だから高校生用の参考書とか買って、自分で勉強してた。
小説家に必要な勉強は何かってのを、
当時から考えていたということでもあるだろうね。
古典の素養は必要だろう、って当時から思ってた。

そもそも、
小説家になろうと思ったきっかけはどこだったの?

中学生のとき、友達が貸してくれた、
藤川桂介の本があったんだけど。

「宇宙皇子(うつのみこ)」の人?

そうそう、まさにそのシリーズを読んでて。
面白かったんだけど、大味だなって思ったのよ。

「大味だな」って感想もスゴいけど(笑)。

なんか私は、もっと繊細なものを読みたかったの。
あの本も仏教がテーマになってるけど、
世界を理解する仕組み、みたいなところに興味があって。
それなら自分自身でそういうものを書きたい、って思ったんだね。

うんうん。
今でも、書きたいって気持ちは高まってる?

最近、宇多田ヒカルの曲を聴いていてね、
いいものを作ってるな、って思ったんだよね。
お酒とかと同じで、丁寧に作ったものはやっぱりいい、って。

オレも、それは思うな。

結果に商品価値があるかどうかは別として、
丁寧に作っていれば、
少なくとも自分の納得いくものは作れるんじゃないかと思って。
こんな若い人が真面目に仕事してるんだから、
真面目に作らないとなって思う。

料理よりも、やっぱり、
小説のほうが思い入れは深いんだ?

料理は好きなんだけど、
気持ちを込めることはできても、
料理一筋でやってきた人と違って、
そんなに手の込んだものを作れないから。
知識のわりに、技術が無いし、手も遅いし。
その道だけでずっとやってきた人たちに、
ストレスを与えずに一緒に働くのは、すごく難しい。
私がいちばん長く時間をかけてきたのは、
言葉のことだから、ほんとうに丁寧に作ることができるものってのは、
やっぱり言葉に関わるものなんだろうと思う。

好き嫌いの明確さ

妙は、世間とか、
周りに自分を合わせようとすることってある?

私は、常に常識に憧れているんだよね。

え!そうなの!?
そこ、ちょっと詳しく聞こうか。
常識って、どういうことだろう。
お葬式のマナーとか?

そういうんじゃないんだよね。
「幸せ」っていうことかな。

というと?

自分の幸せっていうのを、
「この丸い円の中にはめてください」って言われたとしたら、
常識的な人は、そこにきっちり自分をはめられるんだけど、
私の幸せは、そこに収めようとすると、
ちょっと枠からはみ出しちゃうんだよね。

理想が高いってことなのかな。

理想の高い低いというよりも、
単純に、欲張りなんだね。

ああ、自分の欲求を満たそうと思うと、
常識から外れてしまうってことか。

そう。

まあ、みんなそうなんだろうけど、
普通はどこかで折り合いをつけてるということなのかね。
そこで、妥協はしない?

妥協はねぇ、しないかもねぇ。
「完璧主義」って言っちゃうと、完璧な人みたいだけど、
「完璧じゃないのに、完璧主義」だし。

たしかに、そこ、はっきりしてるよね。
やらないものはやらないけど、やる時はやるっていう。

通信簿の成績も、2か10かで中間がないみたいな。

そう、やっぱりそこだな、
妙のユニークさというのは。

利己的なんだと思うよ。
好き嫌いを区別してきて、
それが今まですごく積み重なって、
なんでもはっきり分かれてるっていう。

好きじゃないことに時間をかけるってことをしなかったんだね。

高校生の時も、お弁当の時間ってあったけど、
あれも無駄だって思ってたのね。

昼休みの時間のこと?

そう、昼休みって1時間くらいあって長いじゃん。
で、あれ、グループになって食べるでしょ。
そこで世間話とかしなきゃいけないのがあほらしくて。
だから、5分くらいで食べて、「じゃ!」って図書室に駆け込んでた。

それはスゴいな!
周りよりも、精神年齢が高かったんだろうな。

というよりも、趣味が合う人が周りにいなかったんだね。

小林秀雄の話が好きな人は、高校にはあんまりいないよな。
そういう変わった子がクラスにいたら、
オレは友達になってみたかったな。
(2008年3月 長谷「beau temps」にて)


清水宣晶からの紹介】
妙は、フランス語の翻訳者だ。
妙がパリに留学していた頃に、僕がパリの街を案内してもらった時、妙はしっかりとその街に溶け込んで生活していた。そこがフランスだったからというだけの理由ではなく、妙自身の精神がもともと、ボーダーレスな要素を持っているからなのだと思う。

妙は、料理を作らせても一級品を作る。英語やフランス語で書かれたレシピに忠実に従って、今までに僕が食べたことがないような素晴らしい料理をふるまってくれる。そういう、いい物を作るためには、ひとかけらも妥協をしない。

この日本という国や、この国の生活の中に横たわる様々な習慣、常識というのは、彼女を収めるには小さすぎる器なんではないかと思ってしまう。アナーキーな人と言ってもいいかもしれない。
独立不羈を地でいく彼女の話しや文章は、必ず独自の視点から発信されていて、相当に面白い。それは、妙の人生そのものに豊かな文学性があるからなのだと、僕は思う。

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