柳澤大輔

1974年生まれ、香港出身。
慶應義塾大学環境情報学部卒業。
ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社した後、1998年、面白法人カヤックを設立。Web制作の業務をスタート。
100円からアイデアを販売する「元気玉」や絵画を面積で測り売りする「ART-Meter」といったサービス、サイコロの出目で給料が変動する「サイコロ給」や1年に数ヶ月海外に支社をつくる「旅する支社」という仕組みなど、サービス・仕組み共にユニークな面白法人である。
著書に「アイデアは考えるな。」(日経BP社)、
「面白法人カヤック会社案内」(プレジデント社)など。
(2012年3月 鎌倉「DONUBURI CAFE DINING bowls」にて)

人で決めるという軸

(柳澤大輔:) これ、おみやげ。

(清水宣晶:) おお、豊島屋だ!
(※鎌倉の銘菓「鳩サブレー」の店)

ありがとう。

今回、僕の都合で、
何度もリスケをしちゃったから。

海外出張に出かけるのはいつからなの?

明日から。

明日!?
忙しい時期に、
時間を作ってくれて、ありがとう。

いやいや。
今日は、何を話せばいい?

やなさんには、やっぱり、
出会った当時と、今との違いから聞こうかな。

カヤックを始めたぐらいの頃の話し?


僕が、最初に、
カヤックに遊びに行かせてもらったのが2000年で。
その時と比べて、会社の規模は随分変わったけど、
やなさんの心境っていうのは、変化あった?

面白いことをやろうっていうマインドは、
前から全然変わってないよね。

そうだね。
同じマインドのまま、
やることのスケールが大きくなったような感じがする。

昔は、予算がない深夜番組を作ってるような感じだったのが、
会社が大きくなったことで、あるていど予算の枠が広がったり、
スキルが増えて、出来ることの選択肢が多くなった、
っていう違いはある。

会社を大きくするのってさ、
プレッシャーもあると思うし、
一定以上の大きさになると、
後戻り出来ないコワさもあるんじゃないかと思うんだよ。
やなさんは、どっかで、
「大きくしていくぞ」って覚悟をした時ってあった?

不安や恐怖は当然あって、
失うものは何だろう?っていうのを考えた時に、
自分の中にあるものが自覚できたっていうのはあったかな。
あとは大きな覚悟ってのは、とくになくて、
何か途中で、大きな岐路があったわけじゃなく、
自然と成長させていくことの延長にあったっていうか。
会社を大きくするっていうのは面白かったし、
もともと、そういうことをやりたかったわけだから。

会社を作る時から、
大きくしていくっていうことは考えたの?

それはもちろん、考えてた。
もしかしたら、起業家になる人ってのは、
会社を大きくすることに疑問を感じちゃいけないのかもしれないけど、
僕は、なぜ大きくしなければいけないのか?
っていうことについて、結構考えていたから、
大きくしようと本気で思うまでには時間がかかったんだけどね。
会社って、単純っていえば単純な仕組みだから、
大きくなり始めたら止まらないものだっていうことも、
直感的にわかっていたんだと思う。

うんうん。

やっぱり、大きくしていかないと、
新しく入ってきた人のモチベーションが持続しないし、
僕にとっても、次なるチャレンジっていうのは、
組織が大きくなる過程で出てくるものだから。

なるほどなあ。
成長する過程で、新しいチャレンジが現れるんだね。

あと、自分自身の変化っていうことでいうと、
外からみたら、クリエイターから経営者に、
役割が変わっていったっていうのはあるかもしれない。

経営者としての割合が多くなるにつれて、
自分で直接モノを作る時間が少なくなっていくっていう
フラストレーションってない?

はたからみたらそう見えるかもしれないけど、
でも実は今も、会社を作ってるっていう感じだから、
会社を大きくしていくのも、絵を描くのも、
まあ一緒のことなんだとは思う。

そうか。
会社っていうのもひとつの作品だからね。

「面白法人」って名前をつけた時点で、
目指すカラーははっきりしていて、
そういう会社を作る、っていうことが、
ひとつのクリエイティブな作業になってるから。

「つくる人を増やす」って、
カヤックのスタイルにもあるけど、
「作る」ことって、
やなさんの一貫したテーマだと思うな。

もともと、やっぱり、
「作る」っていうことにしか興味がなかったんだと思う。
そこには、何か形のある作品だけじゃなくて、
生き方そのものを作るっていうことも含まれるし。

生き方を作るってのは、究極だね。
あと、カヤックの理念の中では、
「何をするかよりも誰とするか」っていう言葉も、
すごく共感するよ。

創業期からつかっているからね。
比較的最近は同じことをフレーズにしてる会社も結構あるから、
普遍的なことなんだとは思う。

それだけ、時代を超えて通用する概念ってことだろうね。

たとえば、結婚ていうことでも、
経済的に何ひとつ不自由ないけど
まったく愛がないっていう人と一緒にいるのと、
何もないけれど
愛があって温かい人と一緒にいるのと、
どっちを選ぶっていったら、
愛があるほうを選ぶ人が多いんじゃないかな。
もちろんなかなか現実にはそんな究極の二択はないし、
どちらもないとこまるんだけど・・・。
でも、仕事も、それと同じことだと思う。

何をするかってのは、時代や環境によって変わってくるよね。
会社を始める時期が違ったら、
web制作とは別のことをやってたのかな。

それは、間違いなくそうだと思う。
今も、ソーシャルゲームに力を入れてたりするし、
これからも、別のことをやっていくだろうし。
仕事っていうのはやっぱり、ある面、勝負の世界で。
自分の得意なところで、
最大限価値が上がるものを探していくものだと思うから。

そうだね。

何かモノを作るっていう時に、当時はwebが最先端で、
これから盛り上がっていくっていう最中だったけど、
また新しいものが出来た時、そっちにガッて移る、っていうのはあると思う。
一昨年も、社内のFlashのクリエーターのほとんどが、
スマートフォンアプリがつくれるように転向したっていうことがあった。

ほんとに、機敏に対応してるなあ。
「面白法人」っていう枠で考えれば、
それを表現する方法は、いくらでもあるものね。
やなさんの中では、「これは面白い」ってものを決める時、
なにか基準はあるの?

その時その時で一番新しいものっていうのは、
やっぱり面白いんだけど、
でも、それがいきすぎるとよくわからないものになっちゃう。
カヤックがつくってるものは、そういうのも多くて、
だめなところだとは思うんだけど。

(笑)アートの方向に寄りすぎちゃってるような作品だね。

「面白い」っていうのは、新しくて、なおかつ、
みんながわかるものである必要があると思う。

会社の規模が大きくなって、人数が増えた分、
出来ることの幅が広がった楽しさってあるでしょう?

でも、その分、
イノベーションを起こすことの難しさっていうのも出てきた。
大企業にまで成長した会社っていうのは、
そういう変革を何度も起こして、クリアしてきているわけだから、
やっぱりすごくて。

常に変化し続ける必要があるんだね。

いい会社かどうかっていうのは、
人それぞれで基準が違うと思うんだけど、
会社としての成熟度っていうことでは、
ある程度、規模で計ることが出来ると思う。
働きやすい環境を作り続けないと、人は増えていかないから。

カヤックも、
大きな変革を何度も繰り返してるけど、
やなさんの決断のスピードって、すごい速いよね?

決断が速いのは、
「人で決める」っていう軸がはっきりしてるからだと思う。

それは、その事業を誰がやるか、
っていうこと?

それもそうだし、
一緒に仕事をする会社も、
そこで働いている人がどういう人かを見る。
自分が、新卒の時に就職をした会社も、
オフィスビルの入り口に立って、
出社してくる社員の表情を見て決めたし。

それはスゴい!
徹底して、「人」で決めてるんだね。

それって、直感的なものだし、
理屈で考えて決めるものじゃないから、結論は早い。

マーケットを詳しく調べてから判断する、
とかって話しじゃないからね。

情報や経験を増やすことで決断が早くなる世界もあるけど、
新しいことにチャレンジをしていく時って、経験が通用しないでしょ。
その時には、経験が無かったとしても決断をするための、
自分の軸が、やっぱり必要になると思う。

なるほど。
そういうのって、
パッと見の第一印象でわかる?

その印象が合ってるかどうかは、わかんないよ。
失敗したこともいっぱいあるし。
でも、たとえ失敗したとしても、
人を軸にして判断したことであれば、
その決断を後悔はしないと思う。


やなさんが就職をした時って、
いつ3人で合流して
会社を始めるかっていうのは、
期限を決めていたわけじゃなかったんだよね?

やろうっていうことは決めてたけど、
期限まできっちり決めていたわけではなかったね。
日付を区切ってやるっていうほど、意思が強くなかったからかもしれない。

それなのに、
よくタイミングがぴったり合ったね。

そこは、たまたまだよ。
偶然のところは、かなり多いと思うよ。
結局でも、そういうもんじゃない?
起業もタイミングだし、入社もタイミングだし。
そういうのは全部、縁とタイミングなんだろうと思う。

自分の中を通過させていく

やなさんて、
自分の中にインプットするものって、
何からが一番多いの?

それ、よく聞かれることなんだけど、
質問に質問で返して申し訳ないのだけど
どういうことをインプットっていうんだろう。

えーと、、
何かを考えるための材料や知識を、
本とか人とかから吸収するってことかな。

知識は、増やそうっていう気はあんまり無いね。
覚えようっていうことが、まずなくて、
貯めようとしないから。
ひらめくことに使わないものは、どんどん捨てちゃう。
本を読むっていうのも、
それから何かひらめくことを探しているからで、
それで勉強しようとか、知識を得ようっていう目的じゃないんだね。

それは、なんとなくわかるな。
吸収するっていうより、
自分の中を通過させていって、
ひっかかるものを見つけてるのかな。

そう、自分がひらめかなきゃいけないことや、
決断しなきゃいけないことがあったとして、
その時、たまたま来た人とか、来たものに反応して、
ピックアップしているっていう感じ。

なるほど。
自分の中に貯めておかないでも、
必要なものは、その場で拾いあげることが出来る、
っていう考え方なんだね。

過去の知識とかよりも、
今、この瞬間に自分がどう決断するか、っていう、
その感覚のほうが大事だと思ってる。
大事なことは、何度同じことを問われても、
同じジャッジをする、っていうことになるんだろうと思っているから。

だから、昔のことを、
記憶として残しておく必要はないってことか。

それだと、あまり考えを貯めておく必要もないし。
いろいろ本は読むし、人にも会うんだけど、
そこからインプットっていうのを求めるってことは、
ないんだよね。

自分の中に入ってきたものを、
ストックしていくんじゃなくて、
どんどんフローさせてる感じなんだね。

そう。
何年か後にまた同じ本を読んだら、
前とは違うところが引っかかるんだろうし。
貯めるっていうことよりも、
その、自分の中を通過させて、
今の自分に必要なものを見つけることに、
価値を感じてるってことなんだと思う。


日記をつけたり、
出来事を記録するようなことってのも、
あんまりしない?

何かを記録して、
データとして残してくっていうことはあまりしてない。
写真を撮るってことも、めったにしないし。

記録したい欲求がないんだね。
そういう性格なのに、
ブログの連載を、毎週休まずに、
ずっと続けられてるってのはスゴいと思うよ。

あれも、自主的にはやろうと思わないことだから、
連載の場を持つっていうプレッシャーを自分にかけて、
チャレンジとして続けてるっていうのがある。

(笑)修行っぽいなあ。
自分へのチャレンジなんだね。

時事ネタを書いてくれって、よく言われるんだけど、
時事ネタが一番難しい。

興味がないから?

そうかもしれない。
時事ネタがよくわからないんだよね。
これはもう少し年をとったら変わるかもしれない。
結局、会社も人も、成長していくと
そうも言っていられないことが多いから。
かなり偏った時間の使い方をしているとは思うけど、
時間は限られているからね。

そうだよね。
別に時事ネタについて書こうとしても、
そのことの専門家ってわけじゃないし。

独自の視点を示すためには、
他の人がどういってるのか、
ある程度調べなきゃいけないでしょ。
そういうことを職業にしてる人はいいんだけど、
僕の場合はそうじゃないから、
もっと、実体験をともなったことに特化していきたい。

実体験を伴うことをネタにして書き続けることが習慣になると、
きっと、日常の見え方も変わってくるんだろうと思うな。
連載を続けることで、新たに気づくことってのはある?

書くことで、思考が深くなるってのはあるから、
やっぱり、やってて良かったと思うね。
こういう機会を与えられないと、
自分から書くってことはないと思うから、
もし連載の場がなくなったら、
別のところで、連載させてくれる場所を探すんじゃないかな。

作りたいものを実現する場を作る

今思うと、カヤックって、
設立したばっかりの頃から、
すごくクオリティー高いものを作ってたと思うんだよ。
あれは、一人一人のスキルが高かったんだろうね。

想いだけじゃ、難しいところあるからね。
ある程度のことをこなすスキルは必要になると思うんだけど。
でも、今は、自分よりもクオリティーが出せる人がどんどん入ってきてる。
いつまで経っても、自分がクリエイターとしてトップです、
っていう組織は作りたくなかったから。

いいね。
それぞれの専門分野で、
自分よりも能力が高い人が集まってきて、
いい作品がどんどん生まれる環境ってのは、
すごくエキサイティングだね。

みんなが作りたいものを実現する場を作る、
っていうことがやりたかった。
カイチ(代表取締役CTO貝畑政徳)はカイチで、
ゲームを作りたいっていう夢をずっと持ってたから、
その分野は、僕はあんまり詳しくないけど、
それを実現する環境は、出来るかぎり用意したいって思う。

カイチさんなんか、
今、すっごい楽しいだろうね。
昔は、web制作とゲーム制作って、業種が別だったけど、
今はwebでゲームをやるのが当たり前になってるから。

楽しいけど、ツラい部分でもあるよ。
自分が一番好きなことを事業にした時って、
それを作品として出すってことだからさ。
それがハズれた時のショックってのは大きいと思う。

そうか。
趣味で好きなことやってる分には、否定されることなんてないけど、
仕事にした瞬間に、優劣がつけられて否定されちゃうからね。

だから、
「趣味を仕事にはしないほうがいい」
って意見もわかるんだけど、
僕はそれでも仕事にしたほうがいいんだと思ってる。
そのほうが、面白いから。

スキルのある人達が集まってる中で、
自分が作りたいものに挑戦することが出来るってのは、
クリエイターにとって、最高の環境だと思うよ。

そうそう。
大変な思いをしてるとは思うけど。
作りたいものって、人それぞれにあるから、
それが実現出来る環境があればいいね。


やなさん、社員ひとりひとりの紹介を
メールマガジンに書いてたけど、
人数が増えてくると、全員のことを知るって、
大変なことだね。

だんだん、大変にはなってきてるけど、
面接は必ず全員としているし
知らない人っていうのはいない。
新卒の、これから就職をしようとしている人に
オススメをしてることなんだけど、
創業社長がいるような会社だったら、
やっぱり、創業者に会ったほうがいい、と思う。

それは、確実に、
会社の雰囲気がわかるだろうね。

逆に創業社長がすでにいない会社は、
もしかしたら社長をみなくてもいいかもしれない。
っていうのは、それはそれで組織として成熟していて、
社長というのは一つの役割という状況になっているし、
社風みたいなものは社員をみればわかるかもしれない。
いや、、そんなことないか、
やっぱり出来れば社長には会って、自分の体で感じた方がいいかも。

カヤックも、オフィスとか、働いてる人の雰囲気を見て、
どういう会社かっていうのが、
かなり伝わるようになって来てるんじゃないかな。

まだ、完全にそこまでは行ってないと思う。
今はまだ、創業者の3人が残ってるけど、
将来、代替わりをした時には、そういう風に言えるように、
組織が成熟していたらいいなと思う。
(2012年3月 鎌倉「DONUBURI CAFE DINING bowls」にて)

清水宣晶からの紹介】
やなさんは、常に新しいことにチャレンジをし続けている人だ。
その進化と変革のスピードは凄まじく、会うたびに活動の舞台がスケールアップしているのが、目に見えてわかる。

僕がwebシステム制作の仕事を始めた2000年当時、世に生まれて間もない魅力的な会社が、web業界に数多くあったけれど、中でもとりわけ光彩を放っていたのがカヤックという会社だった。
そのwebサイトの面白さとクオリティーの高さに興味を持って、高田馬場のマンションの一室にあったオフィスに遊びに行った時に、カヤック創業者である、やなさん、貝畑さん、久場さんに出会った。
彼らは大学の一つ上の先輩だったということもあり、それ以来、話し相手になってもらったり、麻雀をやる時に声をかけてもらったり、一方的にお世話になっている。

それから10年以上の間ずっと、カヤックのやることは驚きの連続で、やなさんも、僕の遥か前を走り続けていた。彼方に存在するはずの、未知の大陸の場所を示す、誘導灯のような存在だ。
常に予想の数段上を超えていく、極端なぐらいに創造的でアグレッシブな姿勢には、今でも多大な影響を受けているし、僕自身が新しいことにチャレンジしようとする時の指針になっている。

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