黄昕雯

中国の、歴史のある町、西安(旧長安)で
23年間過した”老西安(ロウ・シーアン)”です!

普通に小中大―→就職かと思いきや、
大学で出会った日本人の夫との付き合いをきっかけに、人生は激しく変わりました。

中学時代に友人からもらったカセットで、
日本の文化や音楽に興味を持ち始めましたが、
中国では、音源が極めて少ないのと、
日本より一ヶ月も遅れるので、
中日の文化と音楽交流に役に立ちたいと考えていました。

その夢が現実になるチャンスが訪れ、
2007年に夫と来日、さらに音響専門学校に入りました。
26歳より、本気で夢を追いかけることを決心し、
人々に希望と感動を与えられる音楽を作る、
サウンドエンジニアを目指しています。

厳しい状況の中、就活で苦戦していますが、
これからも「人生を楽しもう」精神で、
さらに波乱万丈な人生を送りたいです。

2011年4月
(2011年4月 新宿「叙々苑」にて)

日本語と中国語

(清水宣晶:) シンウェンは、日本語、
本当に上手くなったよね。
日本語って、敬語も難しいと思うけど、
ひらがな、カタカナ、漢字が混ざってるのって大変でしょう。

(黄昕雯:) 最初の、50音図を覚えるのはすごく時間かかった。
漢字は中国もあるから、覚えやすいです。
ただ、今、一番実感してるのは、
中国語は、何でも直接言うんだけど、
日本語は、言語の裏に意味があるんですよ。

ああ、なるほど。

目上の人には敬語で話す、とかを知るのは時間の問題で、
そんなに難しくないんですけど、
どうしても慣れないのは、
言葉がまわりこんでて、真ん中に入らないこと、だと思うな。

あるよね。
それは難しいだろうなあ。

日本人同士だと、
言葉の裏の意味も伝わると思うんですけど、
私は、「何を言ってるんですか?
もうちょっと教えてください」って思う。

それは普段意識してなかったけど、
たしかに、そうかもな。
言葉には、辞書に載ってることだけじゃない、
もっと複雑な意味あるものね。

でもね、それは中国でもあるし、
どこの国でもあるよ。
それが、後で、自分で考えたことだったんですけど。

どこか、
すごく日本語が上手くなった時期ってあった?

アルバイトの時には、成長した。
家電量販店で、民芸品を売ってたんです。

ああ、あるよね。
扇子とか日本人形とか売ってるコーナー。
やっぱり、仕事すると、上手くなるんだろうな。

専門学校の時は、
(※シンウェンは、新宿にある音響の専門学校に2年間通っていた)
先生のしゃべりかたが職人的だから、
最初、全然わからなかった。
タクオイジル、とか。

なにその、タクオイジルって?

タクはミキサーのことです。

あ、卓をいじる、か。
そりゃ、わからんよ(笑)!

普段の生活で使わない言葉じゃないですか。
3ヶ月くらい経って、わかるようになったけども。

シンウェンと拓(岩下拓)は、
普段、何語で会話してるの?

日本語と中国語、半分半分。

どっちの言葉のほうが会話しやすいんだろうね。

えとー、
今になると、だいたい同じくらい。
でも、場合によって選択します。
たとえば、ひらちゃん(拓)の家族がいて、
もし不便な話しだったら、中国語で話したり。
で、中国の家族の前で、
話しにくい話しだったら日本語で話したり。

いいね。
公然と内緒話しも出来ちゃうんだな。
拓は、じゃあ、
シンウェンが日本語話せるぐらい上手に、
中国語が話せてるってことなのかな。

ひらちゃんは、もっと上手いですよ。
ネイティブぽい単語もよく使うんです。

そうなんだ!?

こう言われたら、こう答える、とかが
決まってる場合があるじゃないですか。
そういうのを、ちゃんと知ってるんですよ。
意外と。

意外とね。
中国ってさ、微妙に違う方言がたくさんあるから、
地方に行くと、きっともう、
日本人てことがわからないんじゃない?

そう、少数民族多いから。
あと、中国人は大雑把なところあるから、
「そう言われると、そうかな」みたいに済んじゃう。

西安と東京の交差別居

今、拓は、
シンウェンの実家に住んでるの?

最初は実家にいたんですけど、
今は、近くで別の家に住んでます。

シンウェンがいないのに、
シンウェンの実家にいるってのは、
気まずい感じじゃないのかな?

中国ではね、そんなことないんですよ。
全然大丈夫。

そうなの!?

だけど、
中国の親って、みんなすごく心配するから、
強く言われるんですよ
「仕事どうするの?」とか、
「これは、こうやったほうがいいよ」とか。

拓を、自分の子供のように心配してくれてるんだな。
家族のつながりが強いんだね。

ひらちゃんがやってるお店で、
(※拓は2010年に西安で起業して、棗を売るビジネスをやっている)
今、人が足りないから、
ウチのお母さんも手伝いに行ったんですよ。
その時、昼ご飯作って、
自分の分と、ひらちゃんの分を持っていくんですよ。
そしたら、ひらちゃん、
「お母さん、こんな風に僕を甘やかさないでください」って言って。

(笑)「僕を甘やかさないでください」って。

そしたら、お母さん、
「あ、わかった」って言ったんですよ。
で、自分の分だけ昼ご飯食べてたんですけど。
ひらちゃん、しばらくしてから、
「お母さん、お腹すいたから、
やっぱりこれ食べていいですか」って。

ぶはははは!
結局食べるのかよ!

羨ましいなあって思って。
日本の親は、こういうふうにしないじゃないですか。

しかも、自分の親じゃなくて、
シンウェンのお母さんなんだもんな。
やっぱり、家族に対する愛情が強いんだね。

ちゃんと子供を厳しく鍛える親もいるんですけど、
でも、それは少ないです。

で、シンウェンは今、
拓のおじいちゃん、おばあちゃんと住んでるんだよね。

そう。

面白いよなあ、
お互いの実家にいるって。
拓は「交差別居」って言ってたけど。

まだ、私たちにとって、
将来が決まってないじゃないですか。
だから、自分たちのやりたいことやってみて、
ダメだったらまた調整する、な感じ。

将来は、いったい、
どこに住むことになるんだろうね。

たぶん、行ったり来たりと思うんですよ。
東京のほうが新鮮な情報があって面白いし、
でも、西安には西安の味があって。
両方、魅力的で捨てられない。
あっきーさんは、どこの出身ですか?

僕は、横浜の出身。

いいじゃないですか、
ブルーライト。

(笑)よく知ってるね、そんなこと!
そういえば、シンウェン、
上海にもしばらくいたことあったよね?

一年くらい。
その時は、意外とね、就職しちゃった。

あ、そう!?
上海も、就職難しそうだよね。

難しい。
招商銀行っていう銀行だったんだけど、
就職の面接で、何もわからなくて、
ヒップホップの黄色いTシャツで行って。

ぶははははは!
銀行の面接でか。

その時は、バスケットとか、
SPEEDのダンスとか熱中してたんですよ。
で、いろいろおしゃべりして、
周りはちゃんとした格好してたしダメかな、
と思ったけど合格した。

それで、大丈夫だったんだ!?
日本の銀行だったら100%落ちてると思うよ。

ヤンキーぽいよね。
実はヤンキーの性格の部分、ずっとあるかもしれない。

ん?
どういう性格だろう、それ。

いつも、人が行かないほうに
行こうとしてるような気がする。

ああ、そういうことか。
国際結婚をするぐらいだから、
そういう部分も、きっとあるよね。

名前と漢字

シンウェンは、結婚した後、
苗字は「岩下」になってるの?

「黄」のままです。
今はあまり厳しくなくて、そのままでもいいみたい。
その前にカードとかも作っちゃったからね。

拓の場合は、中国では自分のこと
何ていう名前で名乗ればいいんだろう?

ひらちゃんは、「岩下拓」で、
名前が3文字だから、ちょうどいい。

そうか、
中国の名前も、普通は3文字だから。

そう、だけど、
苗字が1文字で、名前が2文字だから、
真ん中の字を名前にくっつけて、、

(笑)じゃ、
「岩さん」になってるのか。

そう、
「岩」はね、「イェン」と読むから、
「イェンス」って言われてて、
それは「岩ちゃん」て意味。

中国では、
「岩」って苗字の人はいるの?

同じ「イェン」の発音の人はいるけど、
「岩」はあまりいないかも。
たとえば「清水」だと、
日本人の名前だってすぐわかるんですよ。

あ、中国では、
名前には使わない漢字なんだ?

そう。
あと、日本の名前としてよく知られてるから。
「岩」はね、中国でも、
「苗字っぽいなー」って雰囲気があるんですよ。

「こういう苗字あるかもなー」って?

そう、
ちゃんと、微妙に。

(笑)微妙に!
その感覚はオレわかんないけど、
そういうのが、あるんだね。
中国って、本当の名前の他に、
ニックネームもつけるんだっけ?

みんなじゃないけど、
ほぼ、つけてる。
家で、お父さんお母さんが呼ぶ名前とか。

シンウェンは、何なの?

私は、名前の一番下の「雯」を並べて、
「雯(ウェンウェン)」ていう。

あ、そうか。
パンダみたいに、
同じ字を二つ並べるんだね。
それ、よくあるパターンなんだ?

よくある。
でもね、これはまあまあだけど、
男性はね、家では「くさいタマゴ」って
呼ばれたりする。

ちょっと!?
なになに?
どういうこと?

(シンウェン、
笑いのツボにはまってしばらく話せなくなる)

それ、どういう発音?

「臭蛋」(チョウダン)。
ちょっと地方いくと、
男の子のこと、そうやって呼ぶ。

なんで、そういう言い方するんだろう?

意味はわかんないんだけど、
甘えさせないで、頑丈に育てたい、
っていうのがあるかもしれない。

ああー、、
「お前なんか、まだ半人前なんだ」
みたいなことなのかな。

そうそう!

シンウェンの、
昕雯っていう字は、どういう意味なの?

「昕」は、朝の太陽。
「雯」は雲に花の柄があるって意味。

へぇーー
「雲に花の柄」をあらわす漢字があるのはスゴいね。
かなり、メルヘン入ってるよ。

そう、だから、
女っぽい名前でしょう?
でも、性格は男っぽいですね。

いやいや!
そんな、大丈夫、
花柄も似合うから。

行きたいところ

中国の中での旅行は、
今まで結構行ったの?

少しだけ。
山東省とか、西安の北の黄土高原とか。
あと、黄山。
松がすごいキレイなんですよ。
北京は3回行った。

移動は、列車だよね。
北京までどのぐらいかかるの?

16時間。

16時間!
もう、外国並みの移動時間だね。

でも、一晩寝て、次の日の11時とかには着きます。
一回は、GLAYのコンサート観に行った。
それは、親に内緒にして、友達と。

親に内緒で、
その北京往復はキツいでしょう。
日本では、行ってみたいところってある?

北海道とか、沖縄とか。
SPEEDのふるさと。

あ!そうだよね。
GLAYは北海道だし。

そう、
行きたいところ、色々ある。

拓がいるうちに、
オレも西安には行かないとな。

今年、私、帰るかもしれないよ。
義理のお父さんと。

そうなんだ?

今年、西安で「園芸博覧会」があるでしょう。
今まで雲南のクンミンでやってたんだけど。

園芸博覧会?
ごめん、知らないなあ。
それ、興味あるの?

特に無いかな。

えぇぇ!?

まあ、それをきっかけに帰ろうかなと思って。

(小田急百貨店の花屋の前を通りかかって)

あ、
あれ、面白い!


レインボーローズだね。
すごいキレイな色だな。

毎日、こういう新鮮な発見とかあるんですよ。
どこに行っても、「あ!」ってのがあるんですね。
この感じが好きなの。
(2011年4月 新宿「叙々苑」にて)

【暮らし百景への一言(黄昕雯)】
今回はインタビューを受けることが出来て、
大変光栄でございます。

未熟な考えばかりですが、
読んでいただいた皆様のご参考になればと思います。

最近の二、三年間、
日本、中国及び世界中で天気がおかしくなったり、
自然災害が多くなったりしている気がします。
今回の東日本大震災と、その二次災害は、
日本の経済、社会に大きな影響を与えました。

日本から帰国をする外国人が続々と出てきて、
私もとても迷う時期がありました。
しかし、今は世界中のどこにいっても、
同じようなことは起きるのではないかと考えています。

文が長くなってしまいましたが、
地球や資源を大切にしながら、
自分が今できることを頑張ってやりたいと思っています。

清水宣晶からの紹介】
シンウェンは、僕が深く会話をすることが出来る唯一の中国人の友人で、中国文化への無二の接点だ。だから、僕個人の対中感情は極めて良い。

これほどにシンウェンと話しやすいのは、単に日本語の能力が優れているというだけのことではなくて、彼女が、とても柔軟な性格や、日本的な人情を備えているからなのだろうと思う。
家族とのつながりを大事にして、礼儀正しさや思いやりを持っている彼女に、旧き良き日本の面影を僕は感じることがある。

岩下拓と結婚した後、お互いの実家に入れ替わって住む「交差別居」というライフスタイルには驚かされたけれど、そういう状況も楽しんでしまう自由な精神があるからこそ、シンウェンは日々、東京での生活に新鮮な感動を見つけ、いつでも溌剌とした明るさを持っているのだと思う。

黄昕雯さんとつながりがある話し手の人


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