栗田尚史

荒川区西尾久の旧小台通り・小台本銀座商店街にある銭湯「コミュニティ銭湯 梅の湯」の番台にいます。
【営業時間】15:30~25:00 毎週土曜定休日

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月に一度はライブハウスの空気を吸わないと禁断症状が出てしまうほどのライブ好き。番台での音楽トーク大歓迎です。

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(2012年1月 荒川区「梅の湯」にて)

コミュニティ銭湯

(清水宣晶:) これは、、
銭湯の中に焼き鳥屋があるってのは、
かなり新しいですね。

(栗田尚史:) もともとは、一つの大きな部屋だったんですけど、
2年前に改装して、仕切りを入れたんです。


なるほど、
待合室の一部を焼き鳥屋にしたんですね。
「梅の湯」は、
栗田さんのご家族が始められたんですか?

ここは、
祖父が昭和26年に始めた銭湯なんです。

そうすると、
栗田さんが3代目なんですね。

そう、祖父が亡くなった後に、
母と祖母とで銭湯をやって、
僕で3代目です。

栗田さんは、子どもの時から、
いずれは家業の銭湯を継ぐつもりでいたんですか?

僕、小さい頃にここに住んでて、
その後、小学校5年生ぐらいの時に、
いったん茨城に引っ越してるんですよ。
それから、就職のために東京に戻ってくるまで、
ずっと茨城に居たんです。

じゃあ、この銭湯に馴染みがあるのは、
だいぶ昔のことなんですね。

まあ、小さいながらも、
結構いろいろ覚えてたりするんですけど。
でも、ずっと地元から離れていたから、
就職する時には、
銭湯を継ぐっていうことは全然考えてなくて。

はい。

東京の会社に勤めて、
4年ぐらい会社員をやってたんですけど、
週末にこっちに来てお風呂に入ったりしてるうちに、
母に、「うちで働かない?」って言われるようになって。
そう言われたら、僕も銭湯が好きでしたし、
「じゃあ、やろうか」と。
それが2年前ですね。

(笑)「じゃあ、やろうか」と。

コミュニティ銭湯っていうネーミングをしたのは、
栗田さんですか?

いや、それは昔からで。
最初は番台形式だったのを、25年ぐらい前に、
今のカウンター形式に改装したんですね。
そのタイミングで、看板も変えたんだと思います。

25年前!
かなり早い時期に、
「コミュニティ銭湯」ってコンセプトを出してたんですね。

この「梅の湯」って、
場所がちょっと特徴あって、
商店街の真ん中にあるんですよ。

たしかに。
銭湯で、商店街のメインストリートの、
ど真ん中にあるって、あんまり無いですよね。

銭湯って、どうしても、大きさの関係上、
大通りから少し奥に入った場所にあること多いんですけど、
ここは、なんか、
面白い場所にあるんですよね。

人が集まるには、
すごく便利な立地と思います。

それで僕も、梅の湯で仕事やりながら、
いろいろ発信していきたいな、って思ったんです。
銭湯って、すごくいいところなんですよ。

いいですよね。

どうしても、最近は、
若い人が行かなかったり、
銭湯業界が不景気になっている中で、
なんとか出来ないかな、っていうことを考えてて。
まずは、ここにお風呂屋さんがあるよ、
ってことを知らしめるために、
とりあえずfacebookやtwitterを始めてみようと。

そう!
その、情報発信をしてる銭湯っていうのが、
素晴らしいと思ったんですよ。

最近は、ネットを調べて梅の湯に来る人っていうのも結構いて。
で、結構遠くから来てる人もいるんで、
もっと近くにも銭湯はあるよ、って教えたりするんですけど、
googleの地図で見ても、ずっと拡大していかないと、
そこが銭湯だってわからなかったりするんですよね。

あ、その銭湯ってのは、
検索しても出てこないってことですか?

ちゃんと、銭湯の名前で検索すれば、
東京浴場組合のページとかに飛ぶと思うんですけど、
「田端 銭湯」で調べたりすると、出てこないんですよね。

ああ!
でも普通、自分の家の近くで銭湯あるか探そうと思ったら、
「地名+銭湯」で調べますよね。

そう、やっぱり、
人が来る最初の入口がない、っていう。
探して見つからなかったから、
「ああ、近くにないんだ」、で終わっちゃうと、
もったいないと思います。
だから、そこを、
各銭湯でやっていけばいのになあ、
っていうのは思います。

でも、おじいさんがやってる銭湯だと、
そこは難しいところありますね。

そうなんですよ。
自分は、慣れてる世代なんで苦にならないんですけど、
高齢の方の場合はもう、わからない、と。

銭湯も、ホームページを用意したり、
ネットで検索した時にヒットしやすくしたら、
それを見つけて来る人も、増えますよね。

去年、自分自身でfacebookページを作ってみて、
良かったなあって思うことはすごく多かったんです。
そういうのを、もっと浴場組合でもやっていきましょうよ、
というのは言っていきたいですね。

銭湯に来るきっかけ

梅の湯でのイベントっていうのは、
どういうのをやってるんですか?

僕は、自分が、
銭湯業界の中では駆け出しだからってのもあるんですけど、
もっと、若い人に来てもらいたいなっていうのがあって。
その、きっかけ作りに、
去年は、寄席をやってみたりしました。

風呂場で?

ほんとは風呂場でやってみたかったんですけど、
終わった後に、すぐにお風呂に入ってもらったかった、
ていうのがあって、脱衣所でやりましたね。

面白い!
寄席の後に、すぐ風呂に入る、と。
そういうイベントには、若い人も来たりするんですか?

facebookとかtwitterでも告知をするので、
そういうのを見て来る人っていうのは、
だいたい若い人が多いですよね。
で、ついでにお風呂に入っていってよ、っていう。

ああ、それはいいですね。

そういう人たちに話しを聞いてみると、
別に銭湯が嫌いとかじゃ全然ないんですよね。
ただ、家に風呂はあるから、
銭湯に来るきっかけがないっていうだけで。
来たら、家の風呂と違って広くていいね、
っていう感想を持ってくれたりとか。

そうでしょうね。

それがきっかけでね、
月に一回でも、週に一回でもいいから、
家の近くに銭湯無いのかな、って調べて、
行ってみてくれるようになるといいな、と思って。


カウンターで案内してた「お茶風呂」ってのも、
イベント的にやってることなんですか?

そうですね、
入浴剤を使ってお風呂の種類を変える銭湯は
たくさんあるんですけど、
家じゃ出来ない特別なことを、
何かやりたいなと思って、

なるほど。

商店街の中にお茶屋さんがあるんですけど、
その店の人と話した時に、余った粉を使って、
お茶風呂をやると気持ちいいよ、って話しを聞いて。
で、要らなくなったお茶をもらって、入れることにしたんです。

へぇーー。
じゃあ、それも、
商店街のお店と連携してやってることなんですね。

商店街は商店街で、やっぱり、
現状をなんとかしよう、と思ってる最中で。
それなら別々にやるんじゃなくて、
何かやりたい人と一緒にやろう、と。

ああ、なんか、
自分が生まれた町で銭湯をやるってのは、いいですね。
お客さんも、周りも、知った顔が多くて。

僕のほうはまだ小さかったんで覚えてなくても、
お客さんのほうは覚えてくれてる、ってことありますね。

「あんな小さかった子が、
今は、こんな大きくなって・・」って感じで(笑)。
そういえば、鶴見「清水湯」の3代目の高橋さんも、
栗田さんのことをご存知でした。

高橋さんも、僕と同じくらいに銭湯の仕事を継いで、
タイミングが同じくらいだったと思うんですよ。

あ、ちょうど経緯が似てるんですね。
2代目、3代目、として後を継ぐ人ってのは、
他にも結構いるんですか?

20代ってのはなかなかいないですよね。
僕は28歳なんですけど、
銭湯業界だと、40歳でも若いって言われるので。

ははぁ。

僕が知らないだけで、
実はまだいるかもしれないんですけどね。
銭湯巡りしてるお客さんなんかは、
「あそこの銭湯は、若い人が番台出てたな」
なんて教えてくれたりしますし。

梅の湯は、
栗田さんが跡を継いで、よかったですね。
今、途中で途切れてしまって、
つぶれちゃうことって多いですよね。

そう、今の銭湯の問題は、そこですよね。
お客さんが来なくなったとか、いろいろありますけど、
一番は、跡継ぎがいないっていうことです。

はい。

今も、だいぶ早いペースで、
東京の銭湯もなくなっちゃってるんですけど、
続けたくても、経営者が高齢になって、
体力的な問題とかで続けられない、
っていうのはすごく多いと思います。
かといって、継いでくれる人もいない。
子どもがいたとしても、その人も40代だったりとかして、
今さら、仕事を辞められない年になっちゃってるわけですよ。

なんか、若い人が継ぐと面白いですよね。
イベントをやるにしても、
そのほうが盛り上がると思いますし。

大田区の日の出湯さんなんかは、
イベントで、風呂掃除の体験とかもやるんですけど、
きっかけ作りとして、銭湯と全然関係ないことでも
イベントとしてやっちゃってるんですよ。
銭湯で餅つきやろう、とか。

あ、なるほど。
で、その後に風呂入ろう、と。
イベントなんかやると、
近所の人だけじゃなくて、
遠くからも、幅広い世代が来そうですね。

僕なんかは、小さい時から銭湯に接してたので、
銭湯に来ることの違和感はないんですけど、
でも、今って、銭湯に入った経験がそもそもない、
っていう子も結構いると思うんですよね。

ああ、、
ちょっと昔までは、銭湯って、
買い物とか仕事の帰りに寄ったり、
日常の一部に組み込まれてたと思うんですけど、
今は逆に、非日常の世界ですよね。
だから、ディズニーランドに行くのと同じ感覚で、
エンターテイメントにしちゃったほうがいいかもしれない。

そうですね。
僕も、そう思ってて。
毎日来てほしいっていうんじゃなくて、
たまに来てくれればいいな、っていう感覚ですね。
小さい頃は銭湯なんか別に興味なかったのに、
大人になったら、銭湯って面白そうだなって、
興味出てくる人っていると思うんですよ。

それはあると思いますよ。
僕もそうでした。

で、そういう時に、
小さい頃に銭湯に入った経験が一回でもあるかどうかって、
結構重要な気がするんです。

ああ、なるほど。
どういうところか知らないと、
うるさいおじさんに怒鳴られるんじゃないかとか、
よくわかんないイメージでしょうね。

だから、若い人とか、
小さいお子さんとかも来て欲しいなあ、と。
荒川区は、
5月から11月の間、第3土曜日に親子で行くと、
親子の入浴料が無料になるんですよ。

え!?
子供だけじゃなくて、親もですか?

そう、すごいんですよ。
区全体で取り組んでるんですけど、
学校でチラシを配って、それをみた親が、
一緒に行く、っていう。
それって、すごくいいなと思うんですよ。
そういうのでもいいから、小さい頃に銭湯入ったな、とか、
風呂から上がってアイス食べたな、とか、
そういう思い出が、あとあと効いてくる部分なんじゃないかなと。

(笑)あとあと効いてくる!
でも、子どもの時に銭湯を経験させるっていうのは、
外の世界に触れるって面でも、いいことだと思いますね。

梅の湯の風景

ちょっと、
中を見せてもらってもいいですか?


今、掃除中ですけど、どうぞ。
ここの脱衣所は、天井が面白いんですよ。


あ、ホントだ!
いろはカルタと国旗。
これは、昔からのものですかね?

開業当時からあったものと思います。
脱衣所のほうは湯気が直接かからないので、
たぶん、直しを入れたことはないです。

ものすごい歴史を感じますね。
中国の国旗なんか、中華民国のだし。

この天井を観に、わざわざ
遠くから来られる方もいますね。
ひとつひとつが、
ことわざになってるんです。

ああ、なるほど。

昔は、お風呂に来た時に、
お父さんが、これを見せて、
子供に意味を教えたりしてたと思うんですよね。
でも、今は、大人たちもわからない。

このことわざは、
勝手に作ってるんじゃなくて、
なにか、いろはカルタ共通のものがあるんですか?

そうです。

じゃあ、昔の人は、
教養としてみんなが知ってたんですね。

僕でもわからないのがあって、
それじゃヤバい、ということで調べたんです。
で、カードにして、ご自由にお持ち帰りください、
っていうふうにしました。

あ、スゴい!
カードを作ったんですね。

なんか、吉田戦車の絵っぽい(笑)。
「牛を馬にする」、なんて初めて聞きました。

江戸、上方、尾張で内容が違ったりするんですよ。
それも、調べてるうちに知ったんですけど。

これはぜひ、いつか、
ホームページにも載せてほしいです。

そのうち、これでほんとに
カルタを作ってみようと思って。
で、ここでカルタ大会なんかやりたいですね。

ああ!
それはかなり粋ですよ。

こっちが、
銭湯の入口の待合室です。


こういう、座って話せる
場所があるっていうのはいいですよね。

ウチは、お風呂から上がった後、
ここでゆっくり休んでいく方が多いんですよ。

マンガがいろいろ置いてある、
とかじゃないけど、
なんか居心地がいいんでしょうね。


缶ビールも置いてあるんですけど、
家に帰る前に、ここで飲んでから帰る、
っていう方も多くて。

もう、家に帰るまで待ち切れないで、
すぐ飲みたい、と。

そういうこともあって、
母が、焼き鳥屋を作ったんですよね。

(笑)なるほど。
銭湯の中に焼き鳥屋入れちゃったっていう、
この組み合わせはスゴいですね。

時間にもよるんですけど、
ここに集まってスポーツ観戦をしてたりするんで、
ワールドカップの時なんかは、
対戦表を壁に貼り出して。
そうすると、サッカーに興味なかった人も、
みんなテレビの前に集まって観戦してたんですよね。

それは面白いなあ。

そういうスペースとして、面白いかなあと。
お互い顔見知りの人もいるんですけど、
全然知らない人もいて、
そういう人たちが一緒にワーッてやってるっていうのが。

スポーツバーだったらある景色ですけど、
銭湯では、なかなか無いですよ。

僕は、銭湯っぽいものから、
そうじゃないものまで、
何をやってもいいな、と思っていて。

話題性としては、
銭湯と関係ないほうが面白いですね。
「これを銭湯でやっちゃうの!?」っていうもののほうが。

最近、いろいろ話しを聞いてると、
銭湯で働きたい、っていう人も、
いないことはない、って思うんですよね。

いや、それはきっと、
かなりいるだろうと思いますよ。

正直、やってる立場からすると、
時間の自由がきかないとか、
休みが取りにくいとかはあるんですけれど、
それでも、やり甲斐はあるんですよね。

はい。

でも、普通に会社に勤めてたり、
就職活動をする、っていう時、
なかなか銭湯っていうのは選択肢として
出てこないじゃないですか。

出てこない。
というか、、情報が無いんですよね。
働きたいと思っても、どうすればいいかわからないっていう。

基本的に、身内で引き継いでいってしまう職種、
っていうのがあるから、
そういうのを、うまくこう、開放して。
就職難って言われてますけど、
銭湯は人手を欲してるんです。

そうですよね。
銭湯で働きたいっていう潜在的なニーズがある一方で、
人手が足りずにつぶれていく銭湯がある、
っていうのは、すごくもったいない話しですよ。

銭湯に来てる人が減ってるっていうのは、
これはもう、しょうがないことなんです。
来てる人がもともと高齢の方が多いので、
そりゃ、自然と減っていくんですよ。

そうですね。

問題なのは、来てた人が減っていくことじゃなくて、
新しい人が増えていない、っていうことなんです。

土日の営業開始前とか、時間貸しで、
このスペースを使いたい人に貸しちゃったらどうですか?
で、終わった後は銭湯に入ってください、と。

清水湯さんなんかは、それをやろうとしてますね。
ピラティスの講座をやったり、
民族楽器の演奏会をやったり。

いいですね。
最近は、ランニングが流行ってる影響で、
皇居周辺の銭湯なんかは、すごい賑わってますよね。

そう、思わぬところで、
意外なものが銭湯とつながったりするんです。
何がきっかけになるかわからないんで、
まだまだ、僕にやれることも、
いっぱいあるんじゃないかと思います。
(2012年1月 荒川区「梅の湯」にて)

清水宣晶からの紹介】
ネットで銭湯のことを調べていた時、「コミュニティ銭湯 梅の湯」という文字がふと目に留まり、とても気になって、今回、是非にと話しを聞きに行かせていただいた。
facebookやtwitterを通じて情報発信をしているということからして、柔軟な感性の担当者の方であろうとは想像していたのだけれど、そこに登場したのは、予想していたよりも遥かに若く、爽やかな青年だった。

家業だったとはいえ、経営を引き継いでまだ2年しか経っていないにも関わらず、栗田さんは、銭湯とはどうあるべきかという理想像をはっきり自分の中に描いていて、銭湯と社会との関わり方についても、明確なビジョンを持っている。

今後、銭湯というのは、地域の活性化の中心としての役割を担っていくべき、求心力を持ちうる場所になるだろうと思う。
25年も前から既に「コミュニティ銭湯」というコンセプトを打ち出した梅の湯の視点は、誠に慧眼というべきで、それを正しく継承している栗田さんのような新しい世代の人の話しを聞けて、とても頼もしい思いだった。

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