高橋早苗

音を組み合わせて、
それに自分のコトバをのせて、
歌っています。

nuiru youtube channel
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就職活動と歌

(清水宣晶:) 早苗が、歌ってものに関わるようになったのは、
いつ頃からだった?

(高橋早苗:) 歌うのが好きだったのは昔からだったんだけど、
最初に関わりが出来たのは、大学で音楽系のサークルに入ってバンドを組んでからだね。

その時は、オリジナルじゃなくて、コピーだったんだよね。
歌っていうものをさ、それ以外のものとは違う、特別なものとして考えるようになったきっかけってあったの?

大学三年生の時に、就職活動を始めるじゃない?
でも、私は、すぐには動くことが出来なくて。

やりたいことが、はっきり決まってなかったんだ?

私は英語が好きだったから、最初は、英語をやりたいなと思ってたの。
でも、就職をするとなるとどれも、求められる英語力がすごく高くって。
それまで、頑張ってきたって胸張って言えるのって英語ぐらいだったから、
そこでいったん、どうしていいかわからなくなった。

就職活動の時って一番、
自分について真剣に考えるよね。

どうしても続けたいって思えるものって何かしら、ってじっくり考えた時、
それは歌だ、って思ったの。
就職活動の時は「歌」なんて要素は出てこないじゃない?
だから、そのことにずっと気づかなかったんだけど。

そうか。
英語は実用的だから就職と関係があるけど、
歌ってのは、就職活動の中では出てこないよな。

そうそう。
きっかけとしては、就職活動っていう流れがあったから、自分の歌への気持ちに気づいたってことはある。
で、そういう気持ちに気づいた頃に、
ニュージーランドに行ったのよ。

おお?
留学で?

そう。短期のだったんだけどね。
日本だと、家族とか周りに「音楽がやりたい」とかっていうと、
「バカ言ってるんじゃない!」って言われるんだけど、
向こうの人たちに同じことを言うと、
「素晴らしい!」っていう風に認めてくれて。
そうやって、受け入れてもらえること自体がすごく嬉しかった。

それはなんか、救われるな。
いい時期に海外に行ったね。

そこに、色んな先生がいる中で、
一人、山のてっぺんに住んで自給自足してる人がいたんだけどね。

何の先生なんだ・・

その先生の家に、みんなで泊まりに行ったことがあって。
先生が野良仕事している間、「好きにしてていいぞ」って言ったから、
みんな、馬に乗ったり遊びに行ったんだけど、
私は一人で残って散歩してた時、山の上から海が一面見渡せる、すごく景色のいいところを見つけて。
「こんな場所で歌える機会なんてないぞ!」と思って、
誰もいなかったから、海に向かって、すごい大きい声で歌ってたの。

ミュージカル映画のワンシーンみたいだね。

で、歌い終わって、
あー、すごい満足、って思ってたら、
後ろからパチパチパチって拍手の音が聞こえて、その先生が出てきたのよ。

ぶははははは!
それ・・かなり、こっぱずかしいシチュエーションだね。

(笑)恥ずかしいでしょ?
先生が後ろでずっと聴いてたのに、全然気づかなくて。
で、その時の歌を、本当に褒めてくれた。

誰もいないと思って歌ってたから、
素の良さが出てたってのもあるだろうね。

そうなんだと思う。
歌を実際に聴いてもらった後に言われたことだから、それが余計に嬉しくて。
私はやっぱりこの先、音楽をやっていこう、って決心して。
で、帰ってから就職活動するのよ。

えぇ!?
なんでその展開で、就職活動しちゃうんだ。

不思議でしょ(笑)
それもちょっとニュージーランドと関係があって。
その時は、オークランドからセスナで、田舎のほうの小さな島に行ったんだけどね。
経済的には豊かなところではないんだけど、その暮らしがすごく平和で、穏やかなものに感じられて、
それを見て、どういう風でも生きていけるな、って思ったの。

そうか。
就職をしようがしまいが、あんまり大きな違いはないって思ったのかな。

そう、肩の力が抜けたっていう感じもあったし、
音楽やるために就職せずにフリーターをやる、っていうのは自分にとってはかっこいいと思わなかったのよ。
それって、夢に近いんだろうか、とも考えて。
就職してみて、音楽と両立出来なかったら、その時に辞めようと思って。

新卒の時じゃないと入れない会社ってのもあるだろうしね。
そういう経験も、音楽を作るにはプラスになるのかもな。

音楽がない生活

早苗は、オーディションて受けたことあるの?

プロになるんだったらレーベルに所属しなきゃ、って思って、
最初の頃は、デモテープを出したりオーディションを受けたりずっとしてたのね。
でも、なかなか結果が出なくて、だんだんしんどくなってきて。

うんうん。

曲を作るのが好きでやっていたはずなのに、
「やりたいこと」が「やらなくちゃいけないこと」になっちゃって。
歌を歌うのも聴くのもイヤになって、しばらく、歌から遠ざかってた時期があったんだけど。

そんな時期があったのか。
そこから、どうやって戻ってきたの?

それまでは、音楽がないと自分が生きている意味がないって思ってたぐらいだったんだけど、その時は、音楽をやっていなくても大丈夫だったのね。
それが、すごくコワくて。
でも、それってさ、もしかしたら自分にとってはそういうことかもしれない、とも思って。
勝手に自分が「音楽がないとダメ」って思ってただけで、なくても生きていけるんだったら、このまま情熱が消えるようであれば違う人生を選ばざるをえない、と思って、放っておいたの。徹底的に、音楽がない生活っていうのを試してみて。
そしたら自然に、やる気が戻ってきた。

それはわかるなあ。
中途半端に音楽から離れるんじゃなくて、
一度、完全に音楽がない生活に切り替えてみたのが良かったんだろうね。

それまではボイトレとかもやって、
上手く歌えること、っていうのを目指してたんだけど、
何もそういうのを気にしないで、歌いたいだけ歌う気持ちよさってのを思い出して、そこからだんだんと元に戻っていった。
今も、「何でデモテープ出さないの?」って時々聞かれるんだけど、
それがあまり重要なところじゃなくなってきたんだよね。

人を納得させるよりも、自分が納得することのほうが優先度が高くなったんだな。
早苗は、そもそもが、大衆受けするような曲を狙って作ろうとしていないよね。
曲の作り方って、どこかで勉強したの?

ううん。

どうやって作るの?

楽譜がわからなくても、音楽理論がわからなくても、
曲を作れる機械があるのよ。

何!?
その、ドラえもんの道具みたいなのは?

自分の曲を歌う難しさ

ヤマハの、シーケンサーっていうツワモノがあってね。
それで、浮かんだメロディーラインを打ち込んで、
理論とかでいうとムチャクチャだと思うんだけどね。
よく、それ聴いてベースの人とかが唸ってるから。

どういう意味で唸ってるんだ(笑)

こういう進行は・・あり得ない、みたいな。

そういうのか。
オレも、イヌイルカの曲を聴いてて、
沖縄かどっかの、知らない民謡を聴いてるような気分になることあるよ。

そう、
勉強をした人だと作らないようなメロディーとかばっかりなんだって。
だから、変わってて面白い、とはギターの人とかは言う。
で、作った曲をドラムやギターの人とかに聴かせて、それを演奏してもらうようにして。
そうすると、このシンバルとスネアは、このタイミングではどうしても叩けない、とかいうのも出てくるんだけどね。

ぶははははは!
「これは手が3本ないと無理です」とかいう事態になるんだ?

そう、そういうのは、
調整しながら変えて行ったりね。

ギターも、
「このコードからこのコードはタイミング的に無理なんですよ」とか出てくるのかな。

ギターは、私の曲では基本的に使わないんだけどね。
ピアノだけだから。

じゃあ、頭に浮かんでるメロディーを直接、
曲として落とし込んでる感じなんだな。

そういう感じに近いと思う。
で、自分の曲を歌うのがすごく難しいの。

え?
あり得るの、そんなこと?
自分が歌うことを前提に作ってる曲なのに?

そう、なんでこんなに難しいの、って
いっつも思ってる。

何が難しいんだろう?

曲ってね、上手く聞こえるように歌える曲、
っていうのがあるじゃない。

メロディー自体が、
耳に入ってきやすいっていうことかな。

そうそう。
そういう意味では、一般的に馴染みがない曲調だから、
自分でしか色づけをすることが出来なくて。
そうすると、自分の色を極めなきゃいけないじゃない。
とにかく歌いこんで、その曲にあった歌い方を見つけるの。

そうか。
表現の仕方まで含めて、一から自分で見つけないといけないんだな。

苦しいんだけど、それも創作の一部でね、
時間をかければかけるほど、良いものになっていくっていう楽しさもあるし、
自分で追求してたどり着いた歌い方だから、同じものを私以上に歌いこなせる人はいない、っていう確信が持てるんだよね。

わかるわかる。
そこまで細かい部分から作り込むっていうのは、絶対に充実感あるだろうって思うよ。
マサ(武藤正幸)と一緒で、早苗も、職人タイプなんだな。

そう、CDの作り方とかはマサ君から教わったんだけど、似たもの同士なんだね。
ライブもライブの良さがあるんだけど、一枚のCDをじっくりと作り込むっていうのは、一つの世界を作り出すのに等しい充実感がある。
清水宣晶からの紹介】
出会った頃の早苗は、とにかくよく考える人、という印象だった。
考える元となる一つのきっかけがあれば、それを起点に自分を見つめ続けて内観していく集中力と、汲めども尽きない井戸のような水源を持っている。
それも、頭で考えるというよりは、体全体で把握しようとしているというほうが近い。研ぎ澄まされた鋭敏な感覚を持ちながらも、同時に、物事を深く深く追求していくことが出来るという、稀有の人だ。

彼女は常に、最初の最初から答えを正確にわかっている。その後で、そこに現実を合わせていくような進み方をするので、時には現実のほうが追いついていかないような事にもなるけれど、そこで、自分のポリシーのほうを曲げるということをしない。

歌い方一つとっても創造的で、曲の作り方、という型に自分を合わせるのではなくて、自分の形に沿わせるように、詩と旋律を創り上げる。そして、歌っている時には、自分自身の形を自在に変えて、流れるような音楽に、透き通った声をのせて、聴き手の中に染み入ってゆく。
その時々の心情をそのまま音楽に映しこんでメッセージにする彼女が、これからどんな曲を歌っていくのか、すごく楽しみだ。

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