高橋政臣

・清水湯三代目
・銭湯シェアハウス
・仕事を創るお手伝い
・コモンビート

お風呂も社会も沸かす活動をしています。
キュンキュンしようぜ!ってことで、毎日楽しくやってます。「働く」「暮らす」「学ぶ」「集う」をもっと自由に。
今後・・・自ら農業し、自ら加工し、自ら販売するを視点に入れる。
(2012年2月 鶴見「清水湯」にて)

昔を残しながら新しいことをやる

(清水宣晶:) ここだ。

(横浜鶴見、清水湯の中に入る)
高橋政臣さんは、
こちらにいらっしゃいますか?


(カウンターの女性:) マー君?

あ、、そうです、
マー君はいらっしゃいますか?

マー君はね、この裏。

ありがとうございます。
(清水湯の裏にあるシェアハウスのほうに行く)

どうも、こんにちは!

(高橋政臣:) いらっしゃい。


今、カウンターに座ってた女性は、
どのぐらいここで働いてる方なの?

30年ぐらいかな。
自分が子供の時からいる記憶があるので、
僕が物心ついた時には、もう働いてたね。

30年!

昔の人ってほんとに働き者で。
ウチ、月に4日しか定休日がないのに、
銭湯が開いてる日は休まず仕事に来るってすごいでしょう?

うわー、、
月に4日しか休まないんだ?

僕もちょっと、
店番やりたいなーとか思うこともあるんだけど、
そこは、彼女たちの長年のテリトリーだから、
今はまだ入り込めない感じがある。

清水湯は、
高橋さんのおじいさんが創業したの?

そう、祖父は、
もともとは、伊東で材木屋をやってた家なんだけれど、
次男なんで、結婚を機に鶴見に出てきて、
銭湯を作ったっていうのが、始まりだね。

(髙橋寿子:) おじいちゃんが写ってはる写真が、
これ。



あ、、この、右上の人。
なんか俳優っぽい、カッコいい人だなあ。

面倒見がいい人で、
すごいモテたっていう、近所の人の噂だった。
僕が3歳の時に亡くなってるので、
ほとんど覚えてないんだけど。

で、この赤ん坊が高橋さんだね。

赤ん坊の時は、
よく一緒に飲み屋に連れていかれてたみたいで。
「ウチの孫だ」って言って、自慢してたらしい。

じゃあ、近所の人なんかは、
小さい頃から知ってる人がたくさんいる?

もう、それはたくさん。
今働いてくれているパートの人なんかもそうだし。
「あんたが、こーんな小さい時から」とか、
繰り返し言われる。

そういうのを考えても、
生まれ育った地元で商売をやるっていうのはいいなあ。

おじいちゃんも、そうとう働き者だったらしくて、
朝早くから夕方まで働いて、
その後は、毎日飲み歩いてたみたいで。

へぇー、朝早くから。
薪を用意したり、仕込みがあったからかな?

そう、この近くに、
キリンビールの工場があるんだけど、
昔は、ビールを入れる箱が、
プラスチックじゃなくて木だったから、
その廃材を集めてくる、
っていうのを朝からやってたみたい。

そうか。
ここは生麦から近いんだ。

親戚の材木屋からも木材がもらえたし、
自分が手間をかければ、
燃料代はかからない時代だった。

燃料代がタダってのは、大きいなあ。

ガス代だけでも月に数十万円ぐらいかかっちゃうから、
すごいコストカットになると思う。
わずか1~2℃の温度の違いでも、
ガス代って結構変わってくるし。


じゃあ、銭湯で温度高めのところなんかは、
その分、コストかかってるのかな。

そう、お風呂屋って、
昔から通ってる常連の人が多いから、
昔からの温度を変えられないんだよね。
ウチは、そういう中では温度が低いほうで。

43℃っていうのは、低いほうなんだ?

梅の湯さんなんかは、
たぶん43.5℃か、44℃近くあると思う。

え?
1℃だけでそんなに違うの?

体感、めっちゃ違うよ。
44℃だと、入るのにだいぶ時間かかる。
45℃ぐらいになってくると、
キョロキョロしちゃう。

(笑)キョロキョロしちゃう!

「アッチィ!」って。
足がもう、痛いから。

そうか、1~2℃の、
微妙な調整の世界なんだなあ。

ウチは、温度計が結構ざっくりな数字なので、
少し違いが出ちゃったりはするんだけど。

清水湯は、ここが建築的に独特、
みたいなのはあるのかな?

うーん・・
破風造りの建築ってのは特徴的だけど、
ウチだけっていうわけじゃないし、、

天井が高い。

あ、たしかに、
ここの浴室の天井はものすごく高いね。

改装をしたら、この天井の高さは、
今の建築法に違反しちゃってるはずだから、
同じ物は作れないと思う。

そうか、現状維持なら問題ないけど、
同じ形のまま建て替えようと思っても、出来ないんだ!
この清水湯は、昔ながらの形を残してほしいなあ。

いかに昔のものを残しつつ、
新しいことをやっていくかっていうのは、
今、考えているところで。
イベントをやるにしても、
常連さんたちの気持ちも汲みつつ、
新しい人を呼び込めるような、
ちょうどいい形を探してるって感じだね。

なるほど。

地元の人たちが来る企画にするんだったら、
たとえば、ヨガだったり、ピラティスだったりしたら、
毎日出来るぐらいの体勢を整えたいなと思って。

銭湯に入る前に、
体を動かせるってのはすごくいいね。

今のお客さんって、高齢の方が多いから、
そういう人たちが長く元気にいてくれるっていうのは、
自分たちにとってもすごく良い事で。
そのための工夫を考えたいってのは思ってる。

継ぐことの決心

高橋さん、子供の時は、
銭湯を継ぐんだな、って思ってた?

思ってたね。
あ、そうだ!
この前たまたま発見した、
小学校の時の作文があったんだ。

おお!

これこれ。

「ゆめはもっとおふろやを大きくすることです」と。
その後ろに、マンション型の銭湯の絵があって。

ぶははははは!
マンション型に改築されてる。

で、入り口に番台がある、っていう。

しかも、これは・・
相当でかいなあ。
窓、ずーっと上のほうまで続いてるし。

たぶん、これは人が住む前提じゃなくて、
もう、これ全体が銭湯。

あ、この窓は、部屋じゃなくて、
明かり取りの窓なのか。

先生からのコメントで、
「がんばって!」って。


(笑)ほんとだ。
「いいね!」みたいなノリだね。

やっぱり、このぐらいの時から、
いつか自分が継ぐだろうとは思ってた。
大人になった後は、
家から出られなくなるのは面倒って気持ちもあって、
先延ばしにしてたんだけれど。

継ぐことを決心したのはいつだった?

祖母が亡くなる直前かな。
最後、祖母の意識があるかないか、ぐらいの状態の時に、
「自分が継ぐから」っていう話しをして、
その言葉が自然と出てきたので。

うんうん。

その当時は、僕は実家から出て住んでたから、
いったん父親が継いだんだけれど、
それから二年ぐらいした頃、
自分がちょうど結婚するっていう時期に、
父親から電話があって、
「そろそろ店をたたもうと思う」って言われて。

あ、じゃあ、お父さんがやってた時期は、
そんなに長くないんだ?

そう、
父親は、銀行を定年退職した後に銭湯の仕事をしてたから、
まあ、これ以上働くのもちょっと、っていう感じで。
「処分しちゃおうと思うんだけど、どうする?」と。

継ぐかどうするか、
選択権を与えてくれたんだね。

で、「処分するのはちょっと待って」って言って、
それから、銭湯の経営状態とかをいろいろ詳しく聞いて、
考えた結果、継ごう、と。

これならやっていけそうだ、
と思って?

もともと継ぎたいっていう気持ちは強かったから、
もし状況が悪かったとしても継いだと思うんだけど。
壊してしまったら、二度と建てられないし、
自分が小さい頃からずっとあったこの銭湯が、
無くなってしまうのを見るのが忍びない。

そうだね。
こういう建物は、そこらのマンションとは違って、
無くなってしまったら、
ほんとに取り返しがつかないものだと思う。

父親も、「自分の代で無くすのはイヤだ」って言ってて。
じゃあ俺の代ならいいのか、ってのはあるんだけど(笑)。

(笑)「とりあえず次の代にパス」したかったんだろうね。

銭湯とシェアハウス

こういうインタビューって面白い。
自分もやってみたいな。

それは、聞く側でってこと?

そう、出来れば、
お風呂に入りながらインタビューしたい。

あ、そうか!
今日もそうすれば良かったなあ。

昨日、佐藤航太くん(就職活動で東京に来ていた北海道大生)
がウチに来た時、
就職活動中に、色んな人から話しを聞いて、
わけわかんない状態になってたみたいで。

人にたくさん会ってると、
情報がいっぺんに入ってくるからね。

で、ここに来て、一緒に風呂に入って、
いろいろ話してたら、すっきりしたみたい。

ああ、外で吸収してきたことを、
ここでアウトプットしながら整理する、と。

考えてみたら、
そういうのって、大学生くらいからよくやってて。
友達が悩んでるとウチに遊びに来て、
じゃあ風呂でも入るか、と。
風呂で二人きりだと、
基本的にインタビューするのと同じ状態でしょう。

そうだ!
風呂だともう、何もアイテムがないから、
話しをするしかないね。
たしかに、銭湯っていうのは、
腹を割って話すには、一番いい場所だと思う。

なんか、いろんな業界の3代目と、
話しをするっていうことが出来れば面白いと思ってて。

そういえば、この前、みんなで話してた時、
「2代目は、しぶしぶ継いだ感じがあるけど、
3代目は、自分の意思で選んで継いだ感じがしてカッコいい」って、
誰かが言ってたね。
たしかに、3代目っていうのは、
そういう人多いんじゃないかな。

3代続いているような商売って、
だいたい衰退産業が多いでしょう。
web制作業3代目とかいないでしょ?

うん。

100年ぐらい続いてたりするものだから、
今の時代に合うような業種ではないことが多いけど、
ある意味、共通点が必ずあるから、
業種の枠を超えて協力し合えるものが、絶対あるはず。

業界にかかわらず、
3代目のみんながぶつかってる壁みたいのはあるだろうね。

銭湯とシェアハウスを組み合わせる、
みたいなことも、他の人たちに話しはしていて、
中には、興味を持ってくれてる人もいる。

そうだ、シェアハウスをやろうってことは、
どの時期から考えてた?


銭湯を継ぐことが決まった時、
家の部屋が余ってたから、じゃあ、
そこでシェアハウスもやろうか、と。
前にも、みんなで一軒家を借りて、
一緒に住んでたことがあったから。

そうか、そういう経験があったら、
たしかに、やりたいと思うかも。

こういう商売すると、
自分があんまり出かけられなくなるってことはわかってたから、
だったら、家に友達がいれば、
出かける必要はないかな、と思って。

面白い!
自分の家に友達を呼んじゃおう、と。

あと、なんとなく、
銭湯とシェアハウスっていうのは相性がいいって
思ってたこともあるし。

その2つを組み合わせることを発想するってのは、
スゴイなあ。

シェアハウスに住んでた時の経験で、
一番困るのが、お風呂とキッチンだったから。

使う時間が重なったりで?

そう、朝と夜は、
タイミングがかぶっちゃうことが多くて、
それで、一時間くらい待って寝るのが遅くなっちゃったり。

ああ!なるほど。
銭湯がついてると、
一番困ることが解消するんだ。

ここなら、かぶっても大丈夫だし、
むしろ、かぶったほうが、
一緒に入れて楽しい。

高橋さんて、こういう、
いろんな人が出入りするような環境って好き?

好きだね。
シェアハウスに住んでた時から、
人が出入りはたくさんあった。
自分の部屋が、何故か勝手にパーティールームになってて、
家帰ると、知らない人がパーティーやってる、っていう。

いいなあ!
自分が家に居ながらにして、
勝手にみんなが遊びに来るっていうの。

自分のスペースはベッドしかないから、
「ちょっと通してもらっていい」ってベッドまで行って、
そのパーティーがおこなわれてる中で寝る、っていう。
あの環境を経験してるから、
いろいろ許せるっていうところはあると思う。

その環境は、
精神的に鍛えられるね。

今は、全員が楽しく過ごせる空間っていうのが大事と思っていて、
気が合いそうな人っていう基準で一緒に住んでるんだけど、
これからは、この風呂屋をどうするか、とか、
この町をどうするか、っていう視点で、
住む人を選んでも面白いのかなと思って。

うんうん。

たとえば、営業時間前に、
ヨガのイベントを毎日定期的にやりたいと思ったら、
ヨガのインストラクターをスカウトして住まわせるのが
一番早いじゃん、とか。

たしかに。
銭湯の部分だけじゃなく、
住居の部分もゼロからアレンジが出来るってのは、
クリエイティブだなあ。

やっぱり、家があるっていうのはいい。
「一緒に住もうぜ!」って言えるのが、すごく魅力的。

そうだよね。
しかも、自分はずっと家にいるわけだから、
その魅力を最大限に享受出来るし。

昔にシェアハウスやってた時も、
よく住人をスカウトしてた。
「ウチ来なよ」と。

(笑)その口説き文句、
超カッコいい!

こういう、シェアハウスとか、
コレクティブハウスっていうのがうまくいった後、
その次にやってみたいと思ってるのが、
コレクティブタウンていう形で。

コレクティブタウン?

公共の物とか、みんなでシェアし合えるものは、
町として持って、町全体の負担を減らす、っていう発想で、
その時に、銭湯っていうのは、
コレクティブタウンの一つの機能になると思う。

なるほど。
町自体で銭湯を何軒か所有して、
住民はタダでまわれる、みたいなことだね。

そういう、街を改造する計画もやってみたい。
自分とつながって、協力しあえるメンバーが、
この町にどんどん住んでもらって。

町に誘致しちゃうんだ!?
それはいいなあ。
子供の学校とかも一緒になるし。

すぐ近くの潮田神社っていうところで祭りがあるんやけど、
その祭りがまたね、ものすごい盛り上がる。


こんなに鶴見に人がいたんだ、ぐらいに。

そこらへんは、やっぱり、
下町の気質が残ってるね。

祭り好きで血の気が多い人たちばっかりで、
みんなエグザイルに見える。

(笑)エグザイル、
どういうイメージなんだ。
鶴見も、このあたりは、
昔の風情が残っていていいところだね。

この地元の人たちとのコミュニケーションを、
もっと増やしていきたいし、
近くで商売やる人を募集して、
全面的にサポートしたい。
この文化は残していきたいね。
たとえ他の銭湯が営業を止めてしまったとしても、
最後の一軒になるまで生き残ろう、と思う。
(2012年2月 鶴見「清水湯」にて)

清水宣晶からの紹介】
高橋さんは、営業終了後の、誰もいなくなった銭湯の湯に浸かりながら、友人の話しを聞くことを得意としている。悩み事を抱えた人も、整理しきれないモヤモヤを抱えている人も、そこで話しをするうちにスッキリとした表情で帰っていく。
彼の、話しやすい雰囲気と、温かい湯との相乗効果で、そこは無上の癒しの空間になっているのだと思う。

銭湯というのは、古来から、一日の疲れを洗い流す場であるというだけでなく、隣近所の人たちと顔をあわせて世間話しをする、日常のコミュニケーションの場でもあった。
そういう、銭湯が持つ機能が今再び見直されていて、銭湯は古くから続く文化であると同時に、最先端のクールなスポットとしても注目を集めている。
シェアハウスもまた、昔の長屋の伝統が、今の人々が求める形で現代に蘇ったものであり、それらがハイブリッドに融合している清水湯という場は、とても魅力的な空間だ。

高橋さんの目線は常に上を向いていて、単に現状維持をするために清水湯を継いだのではなく、その業界や、自分が住む街を活性化させるために、銭湯をどう活用出来るかということを真剣に考えている。
彼の、「ウチ来なよ!」と気軽に声をかけるオープンな姿勢と、柔軟な発想によって、清水湯と「3代目ネットワーク」が、この先どう発展していくのか、今からものすごく楽しみだ。

高橋政臣さんとつながりがある話し手の人


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