笠井有紀子

東京育ち。

1992年に日本女子大学を卒業して韓国企業サムソンの日本法人に入社。93年に退社し、韓国ソウルに1年間滞在。94年から出版社で日本語教育雑誌や海外就職情報誌の編集に携わり、2001に個人事業者へ。

IT情報誌やパソコン誌の編集、新聞社の週刊誌や、ビジネス誌、人材教育雑誌の取材・記事作成、企業のPR媒体などの制作をしてきました。
(2010年9月 自由が丘「ミツバチ」にて)

何を聞いて、何を聞かないか

(清水宣晶:) どうも、はじめまして。
ご連絡をありがとうございました。

(笠井有紀子:) お会いしたかったんですよ。
すごい嬉しいです。

こちらこそです。
お話しするのを楽しみにしてました。
このお店は、蕎麦がすごく美味しいんですよ。

じゃあ、「冷やし江戸菜蕎麦」を。
今、食べながらお話しを伺っちゃっても大丈夫ですか?

ぜひ、お願いします。

録音してもいいですか?
(ICレコーダーを取り出す)

あ、じゃあ、僕も。
(ICレコーダーを取り出す)

このシチュエーション、たまんないですよ~。
あー、嬉しい。

(笑)これは、初ですよ。
「ヒトゴト」についてインタビューされるっていうのは。

ご自身で、自分に対してインタビューしている、
っていうのはありましたよね?

脳内バーチャル対談は、やりましたね。
誰かに話しを聞かれるっていうのは、今まで無かったです。
笠井さんは、ライターが本職なんですか?

文字を書く仕事もやるんですけれど、
どっちかっていうと、編集のほうですね。
仕事でインタビューに係わることはよくあって、
清水さんが「ヒトゴト」でやっていることやポリシーに
共感するところが大きかったのが、
今回、声をかけさせていただいたきっかけでした。

それはほんとに、嬉しいです。
笠井さんも今、サイトを立ち上げて、
個人的なインタビューをやっているんですよね?

そう、やり始めたんですけど、
やってみたら、思っていたよりもずっと、
すごい時間がかかるんですよ。

仕事でやっている時よりもっていうことですか?

ある意味、仕事でインタビューをする時ってのは、
アウトプットが明確なんです。
そのために何を聞けばいいかっていうことも決まっているし。

そうですよね。

だけど、そういう前提がない場合、
何を聞いて、どうまとめていいかがわからなくて。
清水さんがどうやっているのか、お尋ねしたかったんです。

いつも、やりながら、試行錯誤です。
相手によって、「ここが魅力」っていう部分も、
その引き出し方もまちまちで、
だから、僕もまだよくわかってないんですけど。

清水さんにとって、
「人の魅力」っていうのは、どういうところなんですか?

「その人の哲学」っていうことだと思います。

その人オリジナルの?

そう、その人からじゃなくちゃ出てこない言葉とか、
生き様っていうのがあって、
それが聞きたいっていうのはあります。
聞いていて、心が動くような言葉があったら、
それが、その人の魅力の部分なんだと思うんですよね。

なるほど。

仕事的なインタビューをしているような時には
出てこない言葉っていうのがあって、
たとえば、経済の専門家に経済のことをそのまま聞いたら、
もちろん、すらすら言葉は出てくると思うんですけど、
それは、その人の中にストックされている言葉で、
その人の本当の言葉じゃない気がするんです。

あらかじめ用意された言葉しか
出てこないってことですね。

型通りのインタビューをしようとすればするほど、
本当の言葉じゃないものが出てきてしまうので、
そこは、なるべく避けて聞くようにします。
今までに何回もその人が聞かれただろうことは聞かないようにしたり。

そういうインタビュー、ありましたね。
ホノルルマラソンを完走した方に、マラソンのことは聞かない、とか。

なんか、話しの臨場感ていうのがあって、
今まで何回もしたことがある話しをもう一度する時と、
今初めて何かについて話しをする時って、ノリ方が違うと思うんです。
話し手自身でも言葉を探しながら話しをする時って、
すごく集中してるし、その緊張感がある気がします。

私、「ヒトゴト」をよく見ていた時期に読んだ、
川端さんという方のインタビューがすごくツボにハマって。
沈黙が続いている様子を、そのまま出されているじゃないですか。
あの、臨場感が伝わる表現が、いいなと思ったんですよ。

ああいう表現を考えるのが好きなんですよね。
ホームページで出来ることには、もちろん限りはあるんですけど、
その人の魅力がどうやったら一番よく伝わるかっていうのを、
なるべく、一から考えたいと思ってます。

相手の人物に合わせてっていうことですよね。
でも、最初からそういうものを引き出そうとしても、
それがどこにあるか、わからないわけじゃないですか。

わからないですね。

そういう、漠然とした中で、
方向を考えながら話しを進めていくのって、
時間もかかるし、かなり難しいことだと思うんです。
しかも清水さんの場合、仕事とは全然別でやってるわけで、
それを、あれだけの時間と労力をかけて続けているっていうモチベーションは何から出てるんですか?

なんなんでしょうね。
「緊急のこと」と「重要なこと」っていう区別でいうと、
自分にとって「ヒトゴト」の活動は、「緊急なこと」ではないんですけど、
「重要なこと」だと思ってるんです。
だから、時間をかけて一生続けるライフワークだと思ってやっていて、
今持っているリソース全部をそこに注ぎ込みたいっていう気持ちがあるんでしょうね。

まだ知らない自分を知ること

私、インタビューって、
自分への問いでもあると思ってるんですよ。

そうですね。
それは、よくわかります。

清水さんも、やりながら、
自分自身について気づくことってありますか?

それは、毎回そうだと思います。
僕の言葉と相手の言葉が交互にキャッチボールされてるので、
たしかにあれは、自分の投影なんですよ。
だから、誰かについて書いていながら、
半分近くは、僕自身の記事なんですよね。

清水さん、「ヒトゴト」を始めたきっかけで、
世界について知りたいっていうことを言ってましたけど、
自分についての理解が深まっていくこともあるんでしょうか。

ありますね、間違いなく。
それも、好きなところなんだと思います。

インタビューの時の実際の話しと、
それを再現した記事っていうのは、
内容として別の物になると私は思ってるんですけど、
清水さんはどう考えてますか?

まったく別物ですよね。
インタビューを文字におこして書くっていうのは、
その過程で、大きく編集が入りますから。

マスコミの仕事をしていると、
インタビューをした相手に不快な思いをさせてしまうことが多くて。

記事の方針が最初に決まってて、
やむを得ず、っていうことですよね。

そうなんです。
記事の発行者とインタビュイーの向いている方向が同じっていうことも稀にあるんですけど、
たいがいの場合、それが一致しないんです。

仕事のインタビューの場合は、
聞き手の側にも想定している答えがあるから、
一致しにくいっていうことはあるんでしょうね。

清水さんの場合、
お互いが納得がいくインタビューが出来た時っていうのは
どういう時です?

基本的には毎回、そうなるようにしたいと思ってます。
そうなって初めて完成というか。
「ヒトゴト」の場合は、僕と相手の人との間で、
100%合意が取れてないと、公開はしないことにしているので。

そうですよね。
その時の合意っていうのは、何がゴールになるんですか?

んー、明確じゃないんですけど、
お互いが「これはいいよね」って思った状態の時でしょうね。
なんとなく、上手くいった時は、そういう感触をお互いに持ってると思います。

インタビューで話しをする方っていうのは、
終わった後に、どういう感想を持つことが多いですか?

客観的に、文章になった自分の言葉を読むっていうことを、
新鮮に感じることは多いみたいです。
だから、そのことでの気づきはある気がしますね。

話したことで、すごく嬉しかったっていうこともあるんでしょうね。
2~3時間、何かのトピックについて集中して話すっていうのは、
日常生活でそうそうないと思うんですよ。
しかも、テーマがその人本人のことじゃないですか。

そうですね。
人は、「まだ自分も知らない自分」を掘り出してもらうことを
無意識に求めているんじゃないかと思っていて。
だから、自分の話しって、
基本的には楽しいんじゃないかと思うんですよ。

しかも、その話しを、
受け止めてくれる相手がいるわけですもんね。

そう、「あなたの話しを聞きたくて、そのための時間なんです」っていう、
明確な定義が最初にあるっていうのは大きいかもしれないです。

実用的ではない作り

「ヒトゴト」のサイトのレイアウトって、すごく独特だと思うんですけど、
話し手の人の目次を、画面の右側にズラーって並べてるのには、
何か意図があったんですか?

(笑)変なレイアウトですよね。

一般的な感覚だと、
情報系のサイトを作る時には、トップページがまずあって、
そこから分類していって、ページが細かく分かれていく、
っていう作り方になると思うんですよ。

ホームページを作る時の常識から考えると、
あり得ない形だと思います。
普通は、話し手の数が増えた時にページを分けると思うんですけど、
一つのページにズラーっと並べていきかったんですよね。

素晴らしい。
あのレイアウトは、私はすごく好きなんです。

僕が、仕事で依頼を受けてホームページの制作をする時には
こういう形には出来ないと思うんですけど、
自分で作っているサイトなので、好きなようにやってます。

それを敢えてやっているところに、思想を感じますね。
ページの、上の部分にあるシルエットにキーワードがついていて、
クリックすると関連した話が検索されるっていうのも、すごいと思って。


ああいうところは、趣味の世界です。
実用的な意味はほとんどないんですけど、
遊びの要素をなるべく入れたいと思って。

最初っからそういうところまで考えてたんですか?

いや、最初はほんとにシンプルな、
何の機能もついてないところから始まって。
思いつきで、色々と追加して組み込んでいってます。

「ヒトゴト」のサイトを見ている方からは、
どんな感想を言われることが多いですか?

いや、、
あんまり感想は聞かないですね。
知り合いも、見てはくれてるみたいなんですけど、
何か言ってくるわけではないっていう(笑)。

知らない人から、コンタクトがあったりっていうことはないですか?

僕のこととか、話し手の人のことを知らない人が読んでも、
面白いものではないと思うんですよ。

読んでよくわかるのは、関係者の方ですよね。

最低限、僕と、話し手の人の間で共有できる面白いものが残せれば、
それでいいと思ってるんです。
そういう内容のほうが、ディープで面白かったりしますし。

それはわかります。

だから、笠井さんみたいな人がいたことに驚いたんです。
僕のことも、話し手の人も知らない人に興味を持ってもらえるとは思ってなかったですから。

でも私は、関係者だからこそ楽しく読めるメディアっていうのは、
これから増えていくと思っていて。

僕も、そう思っています。

だから、「ヒトゴト」が将来、
どういう形になっていくかってことは、すごく興味があります。

話を聞くことの効用

笠井さんは、仕事でのインタビューをやることは、
今も多いんですか?

多いですね。
週に1~2回ぐらいはやっています。

そうすると、色んな職業とか年代の人に
話しを聞く機会があるでしょう。

地方に行ったりした時に感じるんですけど、
私よりずっと上の年代の方の話しを聞く時なんかは、
その人がやってきた話しというより、その人が生きた時代の話しを聞いている、って気がするんですよ。

そうでしょうね。
それは、わかります。

遠いところに行くと、
帰りの電車が次は夕方までない、なんてことがあるので、
もう、ずっと聞いてるんですよ。

(笑)

たかだか1000字くらいの記事だったとしても、
えんえんと聞いてるんですけど、
そうすると、やっぱり、嬉しいみたいですね。

それは嬉しいですよね。
熱心に聞いてくれる人がいるだけでも、嬉しい。

最初は、そこをちょっと省略してたりもしたんですけど、
ある時から、相手の満足感とか、話しを聞くことの効用みたいなものを感じるようになって、
聞くんだったら一所懸命聞こうかなって思うようになりましたね。

うんうん。

去年、ある作家さんのルポルタージュを作る仕事があったんですけど、
高齢の方に話しを聞くことが多かったので、お会いした後に、どんどん亡くなっていくんですよ。

ああー、、
そういうことがあるんですか。

中には重い病気の方もいて、
亡くなる直前にお話しを聞くこともあったんですけど、そこで色々な話しが出来たことが、とても嬉しかった様子で。
遺族の方たちに、残せるものがあったということもよかったと思ったし。

そういう時って、話して残しておきたいと思うことが
いろいろとあるんでしょうね。

聞いていて、私自身もすごく学ぶことが多くて。
出来れば、そういうインタビューをこれからはやっていきたいって、
最近は思うようになってますね。
(2010年9月 自由が丘「ミツバチ」にて)

清水宣晶からの紹介】
笠井さんは、まだお会いしたことがないうちから、「ヒトゴト」に興味を持って「インタビューをさせてほしい」と連絡をしてきてくれた人だ。
岩下拓吉村紘一という、お互いに共通の友人がいたこともあり、初対面とは思えないほどに、最初から親近感があった。

話しをするほどに、笠井さんとは同じ感覚を共有しているところが多いことがわかり、嬉しくなって、つい話しすぎてしまったような感じがする。
それは、「この人に話せば、言葉が足りなくてもわかってくれるだろう」という安心感と、笠井さんの話しの進め方の上手さによるところも大きかったと思う。

「ヒトゴト」についてインタビューを受けるというのは今までになかったことで、話しながら、自分でも初めて考えたことがたくさんあり、それが、時間が過ぎるのを忘れてしまうほどに楽しかった。

今回は、話し手と聞き手の立場が逆転している、ちょっと異例な対談になったけれども、笠井さんという聞き手がいてくれたおかげで、大きな気づきを与えてもらった、貴重な時間だったと思う。

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